ウェイプスウィード ヨルの惑星 / 瀬尾つかさ

 

 人類の多くが地球を離れコロニーで暮らし、海面の上がり大半が海に覆われたそこは、ミドリムシの変異体エルグレナと菌類であるミセリウトが共生した大きな花状の構造体であるウェイプスウィードが支配する世界となっていました。環境保護団体により接触が制限される地球にようやく降りてくるも事故にあい不時着した研究者のケンガセンと、島で暮らす現地民の巫女である少女ヨルが出会い、物語は始まります。

3つの短編からなる物語は、海洋冒険ものである1話、ジャングル探検ものになる2話、そして改めて「ヨルの惑星」がどういう意味かが分かる3話と色の違う話になっていますが、根本にあるのは人類とウェイプスウィードという未知の知性とのコンタクトであり、それ以上にケンガセンという青年とヨルという少女の物語でした。

地球圏のコロニーとケンガセンの出自である木星圏の文化の差、未来になっても変わらない市民団体や政治の問題に、電脳体やクローンを始めとした人類を変えた技術、そして歴史の中に隠されていた大きな秘密。魅力的な設定と最終的に惑星規模になるスケールの大きさがあっても、語られるのはあくまでもケンガセンとヨルに手が届く世界。彼と彼女が出会って動き出した物語は、人類とそれのファーストコンタクトという遥かな場所まで来てもなお、二人のものでした。

あくまでもシンプルに語られるからこそ、それが映えたのだとは思いつつ、これだけ魅力的な設定があったのだから、もう少し掘り下げがあっても良かったなという気もします。でも、そう思わせないくらいには、年齢に見合わないくらいの子供っぽさと、年齢を超越した達観が共存するヨルというキャラクターは、物語の中でその意味を変えていく「巫女」という役割と合わせて非常に魅力的でした。

「わたしは子どもだから、子ども扱いされると嫌がるよ」 

何度か繰り返されるこのセリフにヨルの特徴と魅力が詰まっているように思います。

島の巫女として自分だけが外の知識を持ち、狭い世界の中で迷信を嫌って生きていたヨルにとって、ケンガセンという外から来た人間が憧れであったこと。木星圏という外の生まれであることで地球圏コロニーで不遇をかこってきたケンゲセンにとって、地球で出会ったヨルという少女がいつのまにかかけがえないものになったこと。

未知の知性のファーストコンタクトであり、人類の隠された歴史から繋がった時代の最先端を描くこの物語ですが、それでもやっぱり、その中心にいた二人のための物語であったのだと、読み終えて思います。