りゅうおうのおしごと! 9 / 白鳥士郎

 

プライドが高く、大人びていて、生意気で、努力家。10歳にしてマイナビ女子オープンを勝ち抜き挑戦者となった『神戸のシンデレラ』夜叉神天衣が挑むタイトル戦の相手は、女流では無敗を誇る『浪速の白雪姫』空銀子。 9巻は天衣の物語。そして、負ければ終わりの勝負の世界を描いてきたこのシリーズが描く、負けてなお前を向いて進む、挑戦者の物語でした。

私がこの作品で一番好きなキャラは天衣なのですが、ただ、どうしてもあいと比べるとどこかで頭打ちになるような設定を背負ったキャラでもあると思っていました。年齢不相応に聡くて、なんでも自分で解決しようとするタイプが、どんなに考えても越えられない壁にぶつかった時、自分が駄目だと思ったらそこで折れるんじゃないかと。だからもうこれは、来たるべくした展開に来たるべくしてきた挫折だと思って。そうなったら、もう在り方から変わるしか無いんじゃないかと。

でも、この巻で夜叉神天衣は夜叉神天衣のままに、大切なものを見つけて、前に進み続ける覚悟を得た。変わったんじゃなくて、広がったという感覚。何よりそれが最高の一冊だったと思います。圧倒的感謝と尊み。そりゃあお祖父ちゃんも泣くわ。

今回は亡くした両親のために将棋を指してきた天衣が、失ったものに区切りをつける物語でもあるのですが、ただそれを過去にするんじゃないというところがまた素晴らしかったです。八一がこれまであいとは違って天衣に将棋を教える姿がほとんど描かれてこなかったことが、まさかここに繋がってくものだとは。そして八一とあいとはまた違う師弟関係を見せてからの、天衣だけが知っているもう一捻り、そして最後に活きてくる『シンデレラ』の意味。対局もいつもながらに死ぬほど熱いですけど、いや、この流れ本当に最高だと思います。というか今回の八一はちょっと格好良すぎるでしょ……。

そして今回は自分を貫くという物語でもありました。棋風は棋士の生き様であり、魂であり、イデオロギーである。それはつまり、人生をかけて闘っているということであって。ただ、それを貫くことを謳いながら、振り飛車を貫いた生石さんの勝敗を一言のセリフでさらっと書く、理想と勝負を一致はさせないバランス感覚は流石と思います。

天衣と八一を中心にしながらそれぞれのキャラクターの物語もまた熱量を持って動いていて、中でも気になるのはやはり女流棋士から見たら圧倒的な存在である姉弟子が見据える、三段リーグという魔境。これまでの展開、そしてこのエピローグ。もはや壮絶な地獄が待っているとしか思えなくて、次巻、マジで怖いです。