異セカイ系 / 名倉編

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

 小説投稿サイトでトップ10にランクインしたらその小説の世界に入れるようになったニートの主人公が、異世界転生、創作者とキャラクターの関係、突然のミステリ展開、時間SFと、メタにメタなメタフィクションを駆け抜けていく、ちょっと簡単には表現しづらい一冊。ですがこれ、そうやって主人公が悩んでもがいて駆け抜けた結果が最後の最後に語られるメッセージにたどり着いたのではなく、このメッセージが初めにあって、それを支えるようにすべてが組み上がっている作品なんじゃないかと感じました。

読んでいると確かに、突拍子もない展開でも考えてみればそれしか無いという道をたどっていくのですが、ちょっと違和感がある感じというか、「そうであるためにそういうことにした」という恣意的な感じがあります。それはこの作品において展開が主人公の「創作」であるために正しさではなく意思を道標にさせていて、なおかつその在り方自体も作品に自己言及的に織り込まれいるので当然ではあるのですが、それにしても最後の方に行くほど無理筋を跳んでいくような印象が。

そしてこのラスト。それからラスト前に明かされる、それ本当に明かしていいの? という設定。ここまで読んで、これはこの素朴な善性が何よりも先にあって、それが生まれた瞬間に、そうであるためにすべてが生まれ、無理筋を繋ぎ、そして出発点としての主人公に至った(そういうことにした)のではないかと。「小説に入れる能力」から辿り着いた帰結ではなくて、この善性をそうであらしめるために、同じような構造が小さく繰り返されて至った出発点が「小説に入れる能力」だった、みたいな。

最近のテーマをこれでもかと取り入れて、創作者とキャラクターの関係性の在り方を真摯に真摯に突き詰めた上で両側から編み込まれたみたいな美しい構造を作り上げて、あれやこれやとギミックを仕掛けて、関西弁の疾走感で前に前にと進みながら、実は後ろに向かってぶわっと広がっていくような不思議な感じ。

たったそれだけのことのためにこんなにと思うか、それだけのことだからこれが必要だったんだと思うのか、その広がり自体を楽しく感じるのか、その中にあるテーマに興味を惹かれるか、なんだか凄い試みのような、大真面目すぎて面倒くさいような、どうにもとらえどころのない面白さのある作品だと思いました。