はたらく魔王さま! 19 / 和ヶ原聡司

 

はたらく魔王さま!19 (電撃文庫)

はたらく魔王さま!19 (電撃文庫)

 

 覚悟完了から無償の愛を振りかざして突っ走った鈴乃も、ヘタレここに極まった真奥も、神撃ちに向かう中エンテ・イスラで発生した大問題も、アシエスに起きた異変もそれぞれに見どころではあるのですが、やっぱり全部持っていくのはちーちゃんなのがこのシリーズ。まさかそんな話の動かし方をしてくるとはびっくりな19巻でした。

不思議な世界に触れた子供が成長と引き換えに子供時代の記憶を閉じて大人になっていくというラインに乗ったかと思われたちーちゃんの物語ですが、力いっぱいひっくり返して来ましたよね。守りたいもののために、自分を曲げるのではなく、本気で世界を変えにいったのが大概にヤバい。そして世界が交わる特異点であるヴィラローザで皆と食べる食卓を守るため、周りを盛大に巻き込みながら、いっちょ異世界救いますかまで飛躍する女子高生はちょっとばっかし普通じゃないでしょう。これまでも幾度も大物っぷりを発揮してきたちーちゃんですが、これはなかなかにクレイジーだなと。

しかしながら、世界をかけて闘った魔王や勇者の関係がこちらの世界の小さな日常にスライドするのがこの作品の仕立てな訳で、それを逆順にたどれば、普通の日常をおくっていた女子高生が異世界で世界を救う英雄になるのも、綺麗なシンメトリーかなという気もします。であれば、佐々木千穂というのは、魔王やエミリアと反対側の立ち位置から物語を進めてきた、もう一人の主人公なのだと改めて思いました。