ユーフォリ・テクニカ 王立技術院物語 / 定金伸治

 

 これは絶対自分好きだろうと思って買った本って、逆に安心して積んでしまうって事があるのですが、まともに考えれば読めば楽しいんだからはよ読めよという感じですよね。何が言いたいかといえば、10年積みましたがめっちゃ好きでした。超好み。

猪突猛進喜怒哀楽ジェットコースターな王女が、イギリスをモデルにした国の王立技術院で「水気」という技術を活用して花火の研究に打ち込む物語。人種差別や女性差別の色が濃い時代に、東洋人のネリの研究室にほとんど無理やりに押しいってきたエルフェールが、様々な蔑視や妨害にも挫けずに持ち前の根性と才能で研究に邁進するのですが、ちょっとこのエルフェールさん普通ではありません。

女性は技術者になれないという時代を打ち破るにはこれくらいじゃないと勝てないとはいえ、まあ怒る怒る泣く怒るで隙あらば大暴走。すぐに手が出て瞬時に土下座する落差で周りを翻弄すれば、失敗して地の底まで落ち込んだり、かと思えば怒りでどこまでもブーストが掛かったりと大層な性格をしています。でも、このくらいの強烈さを持っているからこそ、散々見下され馬鹿にされ邪魔されてなお、睡眠時間を削り家にも帰れず答えの見えない試行錯誤と肉体労働にまみれながら、誰も見たことのない花火を生み出そうとするプロジェクトXっぷりのカタルシスが素晴らしいです。恋愛的なものは……無くはないけどまあちょっと横にどけておいて、この技術への憧憬と反骨精神、辛く苦しくも楽しい研究生活、エンジニアズ・ハイな高揚感、文系の人間としては憧れるものがあります。

邪魔をしてきた鼻持ちならない貴族に人格者の老教授、切れ者の政敵に研究者に憧れる病床の少女。成功と失敗、激怒と消沈を勢いよく繰り返しながらも物語はイエス王道ノーバッドエンドでラストまで駆け抜け、読み終えればスカッと良いものを読んだと思わせてくれる一冊。良いものを読みました。