転生! 太宰治 転生して、すみません / 佐藤友哉

 

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS)

 

心中しようとした太宰が現在に転生! 即日心中未遂! その後自分が歴史に残る作家になってることを知ったり、なろう転生ものを読んだり、芥川賞のパーティーでつまみ出されたり、メイドカフェに通ったり、最終的に地下アイドルをプロデュースしたりするという、あらすじを説明するとお前は何言ってるんだみたいな感じになる作品なのですが、これがまた面白かったです。

私は太宰治は「走れメロス」「人間失格」くらいしか読んでいませんし、あとは教科書の知識くらいしか無いのですが、それでもめっちゃ太宰っぽい……! みたいな感じがするのです。むしろあんまり良く知らなくてもそう思わせられるくらいに、イタコとして完成度が高いというか。文体ももちろん、現代で色々なものを見たり聞いたり、自分と関わった人の未来を知ったり、人と出会ったり、そういうことに対する反応が総じて太宰っぽく感じさせます。ああ、そういうこと言いそう、そういうことやりそう、みたいな。2作しか読んでいないお前が何を知っているんだという感じではありますが。

それでもって、その太宰が繰り広げる話が単純にトンチキ大暴走みたいな方面でも大変面白いものでした。ただ、太宰という人が道化として生きた人間だとするならば、そのおかしさすらも正しいような気がするというのが凄いところなのかなと。純粋さと生真面目さの上で捻じくれた繊細な自意識を覆うように、掴みどころはないのに隙はある道化として生きる感じが、作品自体のふざけているのか切実なのか分からないテンションにマッチして、なおかつ佐藤友哉という人のがこれまでに書いてきたものともマッチして、これでしかあり得ない奇跡のコラボレーションになっているような。後半の方なんて、確かに太宰っぽいんだけどめちゃくちゃユヤタンっぽいというこの不思議な感覚。

総じて、配役の勝利! 太宰治佐藤友哉にとって最高のはまり役だった! みたいな感想になる一冊でした。