賭博師は祈らない 5 / 周藤蓮

 

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

 

 

『ずっと、そう祈っていましたから』 

 

完結。素晴らしかったです。ずっと好きだとは思っていたのですが、この最終巻を迎えたことで、大好きなシリーズになりました。

 

以下、ちょっとネタバレ多めです。

 

この作品はもちろん、賭博の話でも、奴隷と主人の関係の話でも、当時のイギリスの話でもあるのですが、それは要素に過ぎなくて、ずっと生き方の話をしていたシリーズだったのだと思います。養父の教えで自らを縛って生きてきた賭博師のラザルスが、様々な出会いや勝負を経て、すべてを打ち砕かれて、ラザルス・カインドとしての生き方を模索し始めた。そのきっかけはリーラであって、だから変わっていったラザルスの物語は、リーラとの関係においてここが行末であり、またその先への始まりでもある、そういう結末。

ラザルスが彼の性根に向いていない生き方をしていて、それが彼をいつか蝕むだろうことは1巻の頃から感じていましたが、それでもはっきりしていてシンプルでした。それを捨てたラザルスの指針は不明瞭で、だからどことなくふわふわした印象が伴います。正しさや損得で測れない、計算の外にある世界をありのままに受け止めて、相変わらず賭博師として賭けをしながら、自分の生き方を模索していく。

そして、そのラザルスの周りには、これまでのラザルスが救ってきた人たちがいた。その人たちに、救われることがあった。だから、彼は夢に過ぎなくても、祈ることを否定しなくなり、けれど、理想のために身を滅ぼすことは、良しとしない。生きていれば救われることがあると、彼自身が今なら一番に知っているから。

また、彼以外のキャラクターたちにも、それぞれの生き方があって、人生がある。それはリーラやエディス、フランセスはもちろん、ルロイたちにも、更には敵方として登場するジョナサン・ワイルド・ジュニアに至るまで。それは当然なのですが、主人公であるラザルスがふわふわしているような状況で、それぞれの生き方を描きながら、物語自体を成立させているのはなかなかに凄いことなんじゃないかと思いました。

そして生き方を描くにあたって、本当に真摯な物語だったと思います。ずっとこの作品は、来てほしいところに来て欲しいものがくることを好ましいと思っていたのですが、ちょとそれは違くて、描くべきことをしっかり描いてくれる誠実さに惹かれていたのだなと。

中盤の生ぬるい幸せのシーンは、読み手としても正直もうこのまんまでいいんじゃないかと流されるだけのものがありました。けれど、その後のラザルスとリーラの会話で、ああ決してそうじゃないんだなと。ラザルスとリーラが築いてきた関係は否定しないし、彼らがお互いを好いていることも、このまま幸せになれることも分かっていて、それでも彼と彼女がご主人様と奴隷として始まったことは看過させない。この国にいる限り、リーラが虐げられる身であることは、見過ごしちゃいけない。その過剰なくらいの真摯さが、生き方を描くこの作品の基盤であり、一番の魅力だったのだと思いました。その後の賭博のシーンももちろん良かったですが、この二人の会話が、この巻の、ひいてはこのシリーズのハイライトであったと思います。

そしてこれがあるからこそのラストシーン。2人の、そうしなければいけなかった2人の別れのシーンがくるものがありました。ラザルスがいつか彼女の本名を呼ぶという、それはずっと伏線としてあったのですが、『ご主人様』ではなく『ラザルスさん』呼びになっていること前提で、その名を呼ぶというのはまた全然違うじゃないですか。ああもう、『奴隷のリーラ』と『ご主人様』はいなくて、その過去は捨て去るべきものではないけれど、それを経てこれから彼らの新しい関係が始まるというのに、そのためにはここで別れることは必然だった、みたいな。生きていてもなかなか味わうことがない、本当に親しい人との、今生になるかもしれない別れの切なさと寂しさと晴れやかさみたいな、そういう感情を喚起される名シーンだったと思います。

ラザルスとリーラの話ばかり書いてしまいましたが、他のキャラクターもみんな魅力的に描かれていました。中でも私はフランセスという女がすごく好きで、あのすべてを更地にしていくような苛烈さと、ふいに見せる素の感情のようなものと、それでも曲げない、曲がらないフランセスという生き様に惚れます。

ラザルス中心の描写だとなかなか彼女のことは分からない部分もありますが、エディスやリーラたちと何を話していたのか、何を思ってその選択に至ったのか。そして彼女が「会いに行った」オーストラリアの地でどのような物語を描いていくのか、そんなお話を読んでみたいなと思いました。「シリーズ本編」完結巻とわざわざ帯にあるのだから、スピンオフや短編集、期待してもいいんですよね……?