【小説感想】言鯨16号 / 九岡望

 

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

 

 読み終えて、良いエンターテインメントだった! と思える一冊でした。面白かったです。

砂に覆われた世界、人々は神とされる15体の言鯨の遺骸付近に鯨骨街と呼ばれる街を作り、そこから生えてくる言骨を採って暮らしていた。主人公の旗魚は言骨を採って街を渡る骨摘みとして砂を渡る船に乗りながら、歴史学者になることを夢見る少年。そんな彼が非合法の運び屋の船に乗った、憧れの学者である浅蜊に出会い、十五番鯨骨街に砂となって死ぬ奇病の調査に向かう彼女に同行することから始まる物語。

このどこまでも広がる砂漠と謎の多い言骨や言鯨の設定、夢を見る少年と彼が手にした千載一遇のチャンス、そして廃墟である十五番鯨骨街に浅蜊がたどり着いた時、砂の中から起きたものは……という流れはとてもワクワクするもので、特にここからお尋ね者となった旗魚たちが逃げていく中盤にかけての展開が楽しかったです。非合法な仕事にも手を出すアウトローなプロの運び屋である鯱が、何だかんだ功利的な理由をつけながら一緒に逃げることになる辺りがすごく良い。助けてくれるし。なんだお前ハン・ソロか、みたいな。あと砂漠の原生物である蟲を使う一族の娘である珊瑚の飾らない真っ直ぐさと人懐っこさが、旅の仲間の一人として良い感じでした。

後半は世界の謎、そして言鯨の謎に迫っていく展開。基本的にお約束に忠実に、きっちりと一冊にまとまっている話なので、ある意味想像できる範疇というか、スケールの大きな物語ではあるのですが、手堅くまとまった感じがなきにしも。それでもちゃんと面白いし、盛り上がるのですが、魅力的な世界観なのだからもっと突き抜けてほしかったような気もして、そこは良し悪しかなと思います。あとこういう役回りになる珊瑚めっちゃ可哀想では……? みたいな。

そんな感じで、一冊できれいにまとまった面白いエンタメな一冊でした。CGアニメで映画になったりしたら丁度よい感じだろうな、見てみたいなと、そんなことを思ったり。