【小説感想】りゅうおうのおしごと! 10 / 白鳥士郎

 

 このシリーズは将棋をテーマに勝負の世界と才能の話を描き続けているのだと思っているのですが、今回スポットが当たるのはJS研。小学生トーナメントである「なにわ王将戦」に挑む彼女たちの姿が描かれます。

この世界が甘くはないことは、年齢制限の壁と闘う者、三段リーグの魔物に呑まれる者、己の衰えに抗い続ける者と、これまでもずっと描かれてきたことで、それは子供だからといって変わることはありません。才能があるからと言ってそれがきちんと伸びるかは分からないし、才能がなければそもそも話にもならない。いつかは直面する現実があり、育てる側も思い悩む。厳しい奨励会の中ですり潰されたかつての小学生名人という才能を提示してから、小学生たちの大会に入る構成はまあ相変わらず容赦がなくて。

ただ、若いということは可能性でもあるというのがこの大会で見えました。そういう闘いを、JS研の子たちは見せてくれた。才能の多寡はもちろんあって、彼女たちはあいにはなれない。将棋の道に進むかどうかも違うし、そもそも進めない事情だってある。それでもここで勝って笑って、負けて悔し涙を流し、その中でしか得られない成長がある。彼女たちの想いが、努力が、繋がりが、将棋の中で花開く瞬間を、翼が見えたと表現するのはベタだけど素敵だなと思いました。綾乃の頑張り、澪の執念、震えました。そしてこれまで妖精か何かのような扱いだったシャルの芯の強さ、泣くでしょうそんなの。というかどの子も劣勢からの泥臭い粘り強さを見せていて、ああ八一の教え子たちっていう感じがします。

勝ちたかった。負けたくなかった。そしてその原点は、将棋が好きだった。その想いはただプロに向かうためだけにあるものではなく、それでも勝負の中で彼女たちを成長させて、彼女たちを繋いでいる。世界で一番プリミティブな輝きと可能性に満ちた、本当になんというか「小学生は最高だぜ」としかい言い様のないお話でした。

そしてまた同じように羽ばたく話でも八一のあいに対する育て方もあいの持った才能も常軌を逸している感じは本当にやばいなと。同じ世界の地続きにこれを描くのも、繋がているけれど、明確なラインがあるという感じで綺麗事にはしない怖さがありました。

あと、現小学生名人の馬莉愛が耳付きのじゃロリという、これまでも強烈なキャラいたけど流石にそれは無理があるだろというキャラで登場するのですが、神鍋妹とわかった瞬間にああそれなら仕方ないという気分になるので、あのゴッドコルドレンはリアリティレベルを狂わす能力があるのだなと思いました。

そして次巻への引きは姉弟子の三段リーグ。まあ、絶対に向き合わなくてはいけない話ですよねっていう。桂香さんの八一への言葉が、まさに自分を生き方も繋がりも将棋しかないところに追い込んでしまった姉弟子の根本的な不安定さを表していて、怖いですが、心して次を待ちたいと思います。

「でも銀子ちゃんには八一くんしかいないわ」