【小説感想】死神執事のカーテンコール / 栗原ちひろ

 

死神執事のカーテンコール (小学館文庫 Cく 1-1 キャラブン!)

死神執事のカーテンコール (小学館文庫 Cく 1-1 キャラブン!)

 

 自称名探偵の猪目空我が探偵事務所を開くのは古い屋敷の一角。その大家となる謎めいたお嬢様と、彼女に仕える執事を名乗る死神の青年。更には、傍観者を決め込む謎のおじさま。そんな、明らかに人間の比率が低いよね? となるキャラクターたち。

奇妙な彼らの織りなす物語は、探偵だけに謎解きミステリ……かといえばそういう感じではなく、死者たちの人生最後のカーテンコールで心残りが浄化される……みたいなものが主眼ではなく、なんとも一言で表現し難い不思議なお話になっています。コメディという訳ではないけれど、なんだか変な奴らの、だいぶ変な関係が、一周回ってなんか良い感じ! みたいな。

というかイケメンで元子役(探偵)で海外帰りの猪目空我さん。最初はなんだか抜けているけどたまに鋭いタイプなのかなと思って読み進め、途中でああこれは筋肉馬鹿で愛すべきアホの子なんだなと思って読んでいたら、「名探偵と普通の探偵」でこいつはヤバいやつだと。

とにかく善良で鈍感というのが見かけ上の彼の個性なのですが、これそんな生易しいものではないだろと思います。普通の探偵である女が彼の裏を暴こうとするのがこの話なのですが、どんなに掘っても後ろ暗さがないというか、本人が定めた「名探偵」のあり方から、今に至るまでの生き方に、何ひとつの歪みもないのが逆にヤバい。行き過ぎた善良が純化されすぎて逆に狂っているというか、真水は逆に不自然であるみたいな感じ。普通の感覚を持った女探偵との断絶が、深淵の蓋を開けてしまった感があってゾッとします。ここまで正しければ、そりゃあ他者に鈍感にもなろうというか。これで本人は真っ当だと思っていて、いや事実どがつくほどに真っ当なんだから、それはあの人外たちが面白いと気にいる訳だと思います。

そんなこともあり、更には死神とお嬢様との間の執着絡みの話などもあり、一瞬闇を覗き込んだような気配がしながら、最終的にはなんだかなんだ和やかな感じで幕引き。ワケありにも程がある魑魅魍魎たちが楽しそうにしているなら、まあきっと悪くはないだろうと、何か丸め込まれたような気もしつつ、得てして世の幸せはそういうものなんじゃないかなと思わされるような、そんな一冊でした。