【映画感想】天気の子

 

天気の子

天気の子

 

 いやこれ、本当に、本当に、ちょっとこれ、無理です。無理。面白かったとか、面白くなかったとか、そういう次元ではなく、思いっきりぶん殴られて上映後に顔を覆って動けなくなる感じ。気持ちとしては、もう二度と聞けないと思っていた大好きな歌を、ものすごく久しぶりに、けれどあくまで今の歌としてライブで聞いた時のような。観終わってまず、自分とこの十数年の歳月のことを思うような、そんな映画でした。

作品としては、最初から最後まではっとするくらい美しい映像で、知っている東京の風景がどんどん描かれていくし、無駄なく淀みなくストーリーは流れていくし、シンプルに完成度がとても高いです。キャラクターも魅力的で、主人公とヒロインだけじゃなく、冴えないけれど憎めないおっさんとか、もはや概念的ですらあるパーフェクトショタっ子とか、大人なところと子供なところを併せ持ったお姉さんとか、性癖全開な躊躇の無さが好き。浴衣のヒロインが雨の中ビルの屋上で祈っていて、いい感じに美しいピアノのBGMが流れていて、そこから夕陽が覗いて晴れ間が広がり花火が打ち上がるシーンなんて、それ! そういうの頂戴! って感じでヤバいです。

でも、殴られたと思ったのは、そういうところではなくて。

この映画、観る前から、ゼロ年代だとかセカイ系だとか、原作ADVゲームをやった幻覚を見ている人たちだとかの声は聞こえてきていて、私はゲーム文化は通ってきていないけれど、その辺りの小説やアニメは通ってきたからきっと好きなんだろうなとも思っていました。だから、観始めてしばらくは確かに知っている感じだ……と思っていたのです。それこそ屋上のシーンなんてまさに。けれど、後半はそれどころじゃなかった。

大切な一人のために、世界を裏切る物語って古今東西いくらでもあると思うし、少年少女が社会に抗う青春ものなんてそれこそ星の数ほどあるでしょう。それ自体は凄くポピュラーなテーマ。それでも、この感情と世界の在り方の繋がりと、背景に描かれる社会との距離感、この感触は確かに二十歳の頃に打ち込まれた楔で、そこから少しずつ離れて歩んできた十数年が私の現在なのであって、改めて見てもそこには特別な想いがあります。

でも、それだけならまだ懐かしいで済んだはずなんです。ああ、そんな頃があったな、若かったなで終わるものだったかもしれない。違うんです。この映画、あくまでも、現在のための映画です。ノスタルジーではない、研ぎ澄ましてきた十数年で、今をぶん殴る映画だと思います。

二人の感情だけで全てを振り切って突き進んでいるようでいながら、この映画自体の視点は引いているように感じます。少年少女の視界がいくら狭まったとしても、作品全体としては周りに与える影響も踏まえて、二人の行動に丁寧にエクスキューズを与えていくようなバランス感覚。だから、若かったあの頃のあの感じを、今改めて成立させるための映画なのかなと思っていました。

なので、後半も「走れ少年!! 君には世界と引き換えても救いたい人がいるだろ!!」みたいなちょっと引いた目で観ていたところがあって(それはそれで最高にテンションが上がりましたが)、落とし所としてはある程度は現実的なところに持っていくのだろうと思っていたんです。それが、まあ、なんと。

終盤で、主人公の帆高と似た者同士、その未来の姿のように描かれてきた須賀さんが、大人としての役割を投げ捨てる瞬間。成長した未来の帆高ではなく、大切な人を守れなかった未来の帆高になった瞬間に、物語は一線を越えたように思います。良識的な価値観、社会的な規範と、ただ一人大切な人への想いが、帆高の中だけでなく、作品全体として入れ替わった。

そして少年は少女を救うために、世界の形を変えてしまった。それでも、彼が彼女を選んだことを、この映画は肯定します。貫いて良かったんだと。だって、世界なんてものは最初から狂っていたじゃあないかと。

作品として、若さ故の勢いに任せて走り抜けるのではなく、明らかに理性がブレーキをかけているのに、それを振り切って更に速いスピードで走り出す。それが、真っ当であることも、善くあることも分かった上で、それでもやっぱりこれなんだと叫んでいるようで、そこに込められた執念を、狂っているけれど最高だと思います。

そして、だからこそ、これはあれから十数年を経た今でしか生まれ得なかった映画であり、同じだけの年月を歩んで半端に大人ぶった身には、ぶん殴られたような気持ちになるのだと思いました。そうなんだよ、色々あったけれど、その上で、一周回ってここなんだよと。あの時と風景は違うけれど、ここにずっと旗は立っているだろうと。

「君の名は」の成功で得たリソースを注ぎ込んで、圧倒的な完成度と共に改めて今ここに叫び声を上げる金字塔。これが面白いのかも、人に勧められるものかも分からないけれど、この映画は、私の最推しです。