【小説感想】三体 / 劉慈欣

 

三体

三体

 

 びっくりスケールの設定と幅広いとんでも超展開に科学への信奉心と文化大革命を中心にした文化的背景を混ぜ込んで、豪腕でねじ伏せたようなファーストコンタクトSF。いやもう暴走するイマジネーションって感じなのですが、それを豪快に一本の線にまとめていく腕力と、下支えする知識量の基礎体力の勝利って感じで凄かったです。そしてこれだけのことをしてもまだ序章に過ぎないという。というか序章過ぎてまだなんとも言えないので早く3部作の残りの翻訳を!

序盤は文化大革命の嵐が吹き荒れる中国で科学者の父を紅衛隊に殺された少女の物語で、時代が現代に移るとナノマテリアル科学者が突然自分の撮った写真や視界にカウントダウンの数字が見えることから追い詰められていく科学×オカルトサスペンス風の物語へ。その科学者が出会う、複数の太陽が昇り不安定な環境から幾度も文明が滅ぶ世界を表現した謎のVRゲーム「三体」。そしてゲームの先にたどり着く謎のカルト的集団、かつての少女は大きなアンテナが設置された紅岸基地で何をしていたのか、明らかになる異星文明の存在、果たして地球の未来は……と、書いてみてもあまりにぶっ飛んでる上に盛り沢山だなと思います。思うのですが、これが地に足がついたような説得力を伴って、しかもそれぞれの要素がちゃんと連動して一つの物語を形作っていくのがこの小説の凄いところだなと。

そしてそんな中でも貫かれている科学というものへの信頼というか、信奉的なところが科学小説って感じで好きです。未知に対する好奇心というか、子供の頃に特撮やアニメを見て宇宙人とか地底人がすぐ側にいるように感じた、あのSFのわくわく感というか。オカルトが入っているけれど、でも科学なんだよっていうこの感じに、懐かしく、楽しい気持ちになりました。新しさもあるのだけど、こういうところは凄く昔ながらの科学冒険物語でもあるのかなと思います。