【小説感想】ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 4,5 「case.魔眼蒐集列車 上・下」 / TYPE-MOON・三田誠

 シリーズ的にはまだ折り返しですが、いやあここまで読んできて良かったと思わせてくれる面白さでした。めっちゃ面白かった。

第五次聖杯戦争への参加を目論むエルメロイⅡ世がイスカンダルの聖遺物を盗まれ、代わりに数多の魔眼を集めオークションが行われる魔眼蒐集列車への招待状が残されていた、という導入から始まる事件は、これまでからしてもスケールが大きくで濃密なものでした。クセはあれど魅力的なキャラクターたち、様々な魔術と魔術師のあり方を描き、そして起きてしまった事件をエルメロイⅡ世が解体するというのはこれまでと同じ趣向なのですが、そこに詰め込まれるものが盛りだくさんすぎて、カツと天ぷらと唐揚げが一緒に出てきたみたいなことになっています。

これは最終巻かと思うような出し惜しみのない大魔術の連発に、死徒の残したもの同士のぶつかり合い、果ては英霊の登場ととにかく派手な展開の中で、クローズアップされるのは、ウェイバー=エルメロイⅡ世から見たイスカンダルへの関係と、グレイからみたエルメロイⅡ世への関係。そしてその導く者と導かれる者の関係はトリシャとオルガマリーにも当てはまったり、更には倒れても這い上がる者だとか、偽物だとか、義兄弟といったモチーフが物語の中で様々な形で現れるのが面白いです。それでいて、増し増しになった要素が最後には綺麗にまとまるのだから凄いなと。

そんな中でも個人的にはやっぱりグレイが好きです。他人の願いを押し付けられて、英雄の似姿として己を無くしていた少女。そんな虚無の中にいた彼女が、自分自身の大切なものを見つけて、それを守るために足掻く物語はとても魅力的で、師匠のために必死になる姿に、頑張って、でも死なないで、自分を粗末にしないでとつい身を乗り出してしまいます。エルメロイⅡ世への忠誠だけではない、かといって恋愛的な情でもない、感謝と親愛と尊敬の入り混じったような想いが良いなと。

そして、境遇を考えるに、ヘファイスティオンを名乗る彼女の存在はこの先も鍵になりそうで、グレイが何者になりえるかというところも、この先のシリーズをとても楽しみに思います。