【小説感想】86―エイティシックス―Ep.7 ―ミスト― / 安里アサト

 

86―エイティシックス―Ep.7 ―ミスト― (電撃文庫)

86―エイティシックス―Ep.7 ―ミスト― (電撃文庫)

 

 「ミスト」ってそういう意味かよ!!!

という訳で、一旦戦場を離れた(離された)第86独立起動打撃群の面々が盟約同盟の湯けむり温泉郷で特別休暇を楽しむお話。まるまる一冊ノリは修学旅行です。温泉にも水着で入るし、街に出てデートもするし、枕投げもするし、最終日にはダンスパーティーがあってペアになって踊るよ! っていうこの、公式二次創作かといわんばかりのね。

そうなってくるとまあ焦点はレーナとシンの関係で、そりゃあ周りの面々と一緒になって読者としてもヤキモキするわけです。あまりに分かりやすい両片想い! もどかしい! 甘酸っぱい! 爆発しろ!! みたいな。2人の周りの人間模様まで含めて、戦場にいる彼らからは想像もつかないような、瑞々しい少年少女っぷりを見せてくれるので大変です。

2人が心にストッパーを作ってしまうのは、立場であり生まれであり、この戦争と共和国とエイティシックスというところから来たものでもあり、けれどそんな2人が惹かれ合うのはそこに甘んじることなく進んできた道程があるからで。これまで積み上げてきたものがあるからこその関係を、戦時の束の間とはいえこうやって見せてくれるというのが、シリーズ読んできた身としては嬉しく感慨深いものがあります。ぐるぐると散々堂々巡りしながらも、最後にパーティーでダンスを踊って、ホールを抜け出してバルコニーで花火を見ながら……なんてそんなど王道に拍手喝采ですよ。その後あいつ逃げたけどな!!

これまではもっとシリアスな方面で発揮されていた、作者の同じところを丹念に丹念に重ね塗りしていくような描き方が、そのまま全開で少年少女の甘酸っぱい心の動きを描くことに注ぎ込まれているので、箸休めのようで全然箸休めじゃないテンションになっているのが楽しい一冊でした。あまりにも全力。

とはいえ、このシリーズ自体のキーになる情報が鹵獲したゼレーネのレギオンからもたらされていたり、共和国には不穏な動きもあったりと、大きな流れに繋がりそう動きも見えていたのが気になるところ。見通しは決して明るくなく、彼ら彼女らの行く道はこれからも辛く苦しいものだとしても、2人の未来は、その約束は、きっと守られて欲しいなと思います。

だってシリーズのこの位置にこんな話が来ると、この先どう落とされるのかめちゃくちゃ怖いじゃないですか……。