【小説感想】HELLO WORLD if ―勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする― / 伊瀬ネキセ

 

 HELLO WORLDのスピンオフは、直実と瑠璃のクラスメイトとして登場した勘解由小路三鈴の視点から物語を切り取り、そしてifの展開を描いていくもの。

誰とでも仲良くなるクラスのマスコット兼アイドル的なキャラクターだった思っていた三鈴が、中学までは自信がなくて引っ込み思案で自分を変えたいと思っていたというのが意外なのですが、そこに現れたのがアルタラへとダイブした20年後のミスズ(三鈴はBTTFのようなタイムトラベルと理解)。本編最大のネタバレでもある入れ子の構造を前提に、その外側からの介入が、ナオミが直実を導いたように、実は三鈴を二人の中を結ぶように導いていたというお話になります。

この別視点からの描き直しが、SFとしてのこの作品の見え方を重層的にしていくのが、スピンオフとして魅力的だと思います。本編では一貫して直実の目線だった世界を補強して広げながら、決して本編では語れなかった物語を生み出しているのが面白いなと。

ただ、それ以上にこの作品の魅力は勘解由小路三鈴その人にあるのかなと思います。瑠璃と直実のキューピットとして動く三鈴ですが、自分と同じように変わろうとしている直実に、頑張る子が大好きな彼女が惹かれていくのは必然で、だから彼女は約束された失恋に向き合わざるを得ない。世界をかけたifの物語の裏で必死に動いた彼女の物語は、まさしく恋物語でもあって、苦い思いも醜い感情も抱えながら頑張り、自分を変えて、その末に誠実な失恋をした彼女は本当に素敵でした。

お別れのシーン、20年後の自分と現在の自分がお互いに感謝しあって大好きだと思うことが全然嫌味にならないのは、ひとえに三鈴とミスズがどんな魅力的な人物なのかを、そこまでに知ることができたからなのだと思います。本編とはまた口当たりの違う、爽やかで前向きな一冊でした。