【小説感想】海のカナリア / 入間人間

 

海のカナリア (電撃文庫)

海のカナリア (電撃文庫)

 

 高校2年生のぼくと小学5年生女子の城ヶ崎君のお話、で確かに間違いはないですが、これは、なんだこれは、という。あらすじを読んでも何だか分からないと思うのですが、確かにこれをどう説明すればいいのかは難しいなと。

心象風景がそのまま小説の形になったみたいな、心理テストで描かれた絵みたいな一冊です。そしてそれを書いたのが入間人間なのだから、出来上がりは特濃の入間人間という感じ。このダウナーな空気というか、絶望や諦念と呼ぶには平坦すぎる、低めに安定した感じ。軽く、浅く、ただぶっ壊れた登場人物たちと、ネタを含めた軽い会話の応酬。閉じた街と関係性、時間を絡めたSF要素、脳裏に焼き付くような情景描写、世界の崩壊とそれでも続いているもの。入間人間の作品に通底しているものを取り出して煮詰めたような、そういう感触。

世界についての大きめの謎も、大事件だったはずの出来事も、ドラマチックにしようと思えばできるはずで、けれどただそうであるものがそうであるとでも言うばかりに、淡々と描かれていきます。その割に、なんでもないシーンが妙に印象に焼き付くのも不思議。城ヶ崎君とぼくが焼き肉を食べるところとか。

全体的に入間人間の原液という感じで、薄めるなり味付けるなりしてくれないと食べられないじゃないかとも思います。でも、やっぱりこれを嫌いにはなれない。というか、入間人間のファンをやってる人間が、これを嫌いなわけがないじゃないという、そういうタイプの一冊でした。