【小説感想】りゅうおうのおしごと! 12 / 白鳥士郎

 

りゅうおうのおしごと! 12 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 12 (GA文庫)

 

 三段リーグ編としては姉弟子の物語に大きな転機が訪れる前巻があまりにもクライマックスで、あとは着地するだけでしょうくらいのつもりで読み始めたのですが、いや甘かった。地獄とも称されるプロへの狭き門、その終盤の戦いに挑む棋士たちの姿がとにかく強烈な一冊でした。確かに物語としてのピークは前巻だけれど、姉弟子以外の人たちにもスポットを当てながらこんなアベレージ叩き出されたら平伏するしかありません。

改めて空銀子というキャラクターが選んだ修羅の道を確認するというか、それしか選べない人々の姿を描き出す話であったなと思います。彼女にとっては将棋が全てで、将棋を通してしか八一との関係が作れなくて、けれど八一に追いつけるほどの才能は持っていない。だからどうやっても幸せになれる気がしなかった姉弟子が、別の幸せな道があることを意識して、それでも血反吐を吐いて蹴り開けたプロという扉。それしか選べないんじゃなくて、その先に続く道がたとえ地獄であり続けたとしても選ぶんだね、と。

そしてそうやって三段リーグで己の才能に苦しみ続けた銀子の姿すら、逃げ出した自分には手すら掛けられなかったものだと思い知らされる月夜見坂さんの叫びもまたひとつの真実なんだよなあと思います。縦に縦に長い勝負の世界で、みんな上を見ているから己の足りなさばかり気にして、そこにすら届かない下の人たちのことは見向きもしない、その残酷さを強く感じました。

あと、今回の主役たちの中では辛香将司が、どんなに勝つために手段を選ばないことをしても嫌いになれなかったのが、もう作品の術中にあったというか、そういう場としての三段リーグを刷り込まれていた感じ。それでそこから、姉弟子との対局。徹しきれない甘さ、自分の人生を繫いだものにかけた優しさ、そしてそれは勝負においては致命的というのがね。人なんて顧みない雰囲気のあった天才小学生の創多と鏡洲さんの関係も、最後の昇段者となった人のことも、本当に人を描く作品だと感じた一冊でもありました。厳しい勝負の世界を描いても、コンピュータ将棋の発展を背景にしても、むしろだからこその浪花ど根性人情将棋ものなんだよなと。

で、そう思って読み終えたところ、ラストで八一の視点から描く諦めない執念の物語を、図抜けた才能があるから成立する残酷な喜劇だと切り捨てる切れ味が流石というかなんというか。三段リーグ編は終わったけれど、この先も手綱を緩めるつもりなんて一切ないという宣言のようで震えました。

そして今巻の本筋からは外れたところにありますが、見どころだったのが天衣の奇襲ですよ。こういうキャラクターが、劣勢にあればあるほど強気に自分が一番になるとぶち上げるの本当に好きなんですよね。前々から精神年齢高めのキャラでしたが、馬莉愛にツンデレロリ属性が持っていかれた結果か、10歳って半分くらいにサバ読んでんじゃないってくらいの大人びたムーブをかますのも大変に良いと思います。天衣の話は、前に丸一巻使って終わったかなと思っていたし、正直ここからどうにかなる目はないと思うのですが、それでもまだまだ終わっちゃいないと本人から宣戦布告されたらそりゃあこの先が楽しみってものです。諦めが悪いことがこのシリーズの主役たちの特質ですしね!