【小説感想】こわれたせかいのむこうがわ ―少女たちのディストピア生存術― / 陸道烈夏

 

 電撃小説大賞の銀賞受賞作は、世界で唯一残された独裁国家の下層社会で生きる少女が、砂漠の向こう側を目指す物語。

このフウという少女が手にしたのはいつかどこかの教育番組が流れ続けるラジオで、母親を失った彼女は、そのラジオから聞こえる声をよすがに生きてきた。それを聞き続けたことが、彼女にこの国にあらざるべき経済や自然科学の知識を与えます。そして天涯孤独だった彼女が、国から追われる謎の少女、カザクラと出会った時に、物語は動き出す。

生きるので精一杯の最下層から、王を神と崇める抑圧の国家から、どこまでも続く過酷な砂漠から。どこかを目指したフウの旅を支えたのは、ラジオから得た知識と、心を開き手を取った仲間の力。

このチオウという国や砂漠の描写にすごく雰囲気があって、そこから脱出する少女の物語という時点で、もう勝っているという感じです。そこに加えて、強い力を持つ人造人間であったカザクラとの関係、ラジオの電波がどこから来ていたのかという謎、絆と知識を握りしめ、救いを目指して挑む少女たちの冒険。そんなの魅力的に決まっているし、彼女たちの行く末が救われたとしても、手が届かなくても、もうどうしたって泣いちゃうじゃん、みたいな。

後半の展開は駆け足にイベントを消化していくようなところはありますし、文章も謎の明かし方もかなり粗っぽいところもありますが、それが逆に砂漠に伝承される物語的な雰囲気に繋がっているところもあって、全体として凄く良いものを読んだなあと思う一冊でした。

【マンガ感想】虚構推理 12 / 城平京・片瀬茶柴

 

虚構推理(12) (講談社コミックス月刊マガジン)

虚構推理(12) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者:片瀬 茶柴
  • 発売日: 2020/03/17
  • メディア: コミック
 

 (私の)念願だったアニメの放送され、動きしゃべるおひいさまを拝む日々が3ヶ月続いた虚構推理ですが、原作の方も新しい事件に入って面白いです。

相変わらず妖の介在する真実を合理的な虚構で制する岩永琴子の高校時代が見られる過去エピソードから、同じくダイイングメッセージを扱った雪女の事件へ。

この雪女がまた可愛いのです。かつて雪山で突き落とされた男を助け、その男が色々あった末に山の近くに住むようになれば、そこに居着いて飲んでは食べて。雪女というと冷たくすました感じを想像するところですが、美しい上に茶目っ気と愛嬌があって、そして情にも厚い。妖怪らしからぬ人に近い常識も持っている。男の方も、そりゃあ命の恩人でもある雪女に惚れないわけがないよねっていう。

そんな男が殺人の容疑者となり、アリバイを証明できるのは雪女だけ。けれど警察の前には出ていくわけにいかず、どうしようというところで雪女が頼ったおひいさまの登場なのですが、いやだって、前作「スリーピング・マーダー」ですよ?

人と妖の調停者である岩永琴子は、秩序をもたらすものであって感情に忖度はしないということを突きつけたあの「スリーピング・マーダー」の次に、明らかに感情移入させる気ばりばりの好感度高い人間と妖怪のカップルをですね、こんな魅力的なキャラクターで描いてですね、さあ次巻へ続くじゃねーって話ですよ。というか次回予告でもう辛いって話ですよ。

雪女が直接介入することは是とされない以上、雪女が目撃されていることを前提に雪女がいなくても成立する解を作るしかなく、でもそれっておひいさま的にはありなのかなあとも思ったり。これが救われる方と悲恋になる方のどちらに転んだとしても、もはや作者の掌の上で完全に踊らされています。読みたいような、読みたくないような次巻、でもやっぱり早く読みたいなと思うのでした。雪女可愛いしね!

【小説感想】やがて君になる 佐伯沙弥香について 3 / 入間人間

 

やがて君になる 佐伯沙弥香について(3) (電撃文庫)
 

 分からなかった小学生時代、裏切られた中学時代、届かなかった高校時代、そして大学時代。恋に慎重になった彼女は、今まで好きになったことがないタイプの後輩からの好意を受けて、恋と何かもう一度向き合っていく。

佐伯沙弥香にスポットを当てたスピンオフ第3巻は、原作エピローグでも触れられた佐伯先輩の恋人の陽ちゃんこと枝元陽との出会いと関係の変化を描いたもの。いやもう、佐伯沙弥香の物語としても、原作スピンオフとしても、ある意味原作のその後を描いた物語としても完璧でしょう。パーフェクト。

本当にこのシリーズは佐伯沙弥香の解像度が高いのが凄いと思います。少し文章を読めば、正にそこに佐伯沙弥香がいる感じ。そして普段のアクの強さを消して原作の雰囲気にしっかり寄せながら、空気感や感情、関係性の描写は流石の入間人間という感じなので素晴らしかったです。1巻が一番入間作品っぽく、2巻でだいぶ寄せているとは思いましたが、3巻は完璧だったなあと。

お話としてはもう佐伯先輩が幸せになってくれてこんなに嬉しいことはないのですが、そこに至るまでの陽との出会いがまた良いです。授業も自主性に任されたキャンパスライフ、初めて飲むお酒、立ち寄った後輩の下宿。そういう大学生になったからこそ変わった日常が、彼女自身を少しずつ変えていくのが、確かに前に進んで変わっていくのだという、彼女の区切りをしっかりと描いていてとても良い。今までに好きになった人とは違う陽だから、彼女の心の扉を開けたというのもね、また良いのです。

まさに「佐伯沙弥香について」というタイトルに相応しい、それ以外の何物でもないシリーズでした。大変よろしかったです。

【小説感想】私をくいとめて / 綿矢りさ

 

私をくいとめて (朝日文庫)

私をくいとめて (朝日文庫)

 

 困った時には脳内の執事のような存在Aに助けられながら、「おひとりさま」ライフを満喫するみつ子32歳。Aとの脳内会話の軽快さとみつ子の視点から描かれる世界の面白さ、文章のノリも見覚えがあるし、みつ子の考えていることや言っていることも心当たりありまくりで、共感値のめちゃくちゃ高い楽しい小説です。そんなみつ子が多田くんとの関係の進展で少しづつ変わっていき、他人との関係を作ってAとの別れを迎えるというのも物語として王道に感じます。いやそれが王道として描かれるの、子供から大人への話だろというのはちょっと置いておいても。

なのですが、これ、何かおかしくない? 深淵がちょろちょろ覗いてない?? みたいな感触のある一冊でもあって。

とにかくこの小説、みつ子フィルタ、みつ子一人称による世界の見え方が強烈なのです。見えているものも、考えていることもよく分かる、分かるのだけど、見えていないものがそこにあることも分かるというか。そして、みつ子がその領域に踏み入れそうになると、Aが全部寸前で受け止めて掬い上げてる感じがあります。だからAが居なくなって多田くんに向き合ったところでみつ子はバランスを失い、出てくる言葉がこの「私をくいとめて」というタイトルだという。

みつ子は考え方が自分主体だし、見えてる世界が狭いのは間違いない。でも、それが幸せなのか、そうじゃないのかはなんとも言えない。Aが救ってくれるみつ子の世界にはちょっとした不幸はあっても、それ以上のものはありません。一人で生きることを選ぶに至ったコンプレックスもない。とにかく暗くマイナスなものがない。前向きで、のほほんと幸せで、感情が不必要に揺れ動くことはない。そして読者はそれを未熟だと切って捨てることも、新しい生き方だと賛同することもできる。それは価値観の古さ、新しさの問題なのか、答えはゼロイチではないとして、正しさはどこにあるのか。

その答えをこの小説は出さないで、でも、解説で金原ひとみが書いている通り、みつ子的なものがメインストリームに躍り出つつある雰囲気というか、時代の空気をこれでもかというくらいに鮮やかに切り取っています。だから、これを読んだ人間は、みつ子の世界と、みつ子フィルタの外側を含めた世界をどう受け止めて、考えていくかを委ねられているのかなと思います。

そして30代おひとりさまな私にとってこれは全くもって他人事じゃなく、できることなら向き合いたいものではなく、なのに一歩踏み込んだ瞬間逃げ場がないので、みつ子フィルタが破られそうになるたび、あるいはみつ子フィルタの存在を感じる度に、その向こうに見える深淵を感じたのかなと。

まあ、覗き込む、覗き込まないも、私次第ではあるのですが。

【小説感想】りゅうおうのおしごと! 12 / 白鳥士郎

 

りゅうおうのおしごと! 12 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 12 (GA文庫)

 

 三段リーグ編としては姉弟子の物語に大きな転機が訪れる前巻があまりにもクライマックスで、あとは着地するだけでしょうくらいのつもりで読み始めたのですが、いや甘かった。地獄とも称されるプロへの狭き門、その終盤の戦いに挑む棋士たちの姿がとにかく強烈な一冊でした。確かに物語としてのピークは前巻だけれど、姉弟子以外の人たちにもスポットを当てながらこんなアベレージ叩き出されたら平伏するしかありません。

改めて空銀子というキャラクターが選んだ修羅の道を確認するというか、それしか選べない人々の姿を描き出す話であったなと思います。彼女にとっては将棋が全てで、将棋を通してしか八一との関係が作れなくて、けれど八一に追いつけるほどの才能は持っていない。だからどうやっても幸せになれる気がしなかった姉弟子が、別の幸せな道があることを意識して、それでも血反吐を吐いて蹴り開けたプロという扉。それしか選べないんじゃなくて、その先に続く道がたとえ地獄であり続けたとしても選ぶんだね、と。

そしてそうやって三段リーグで己の才能に苦しみ続けた銀子の姿すら、逃げ出した自分には手すら掛けられなかったものだと思い知らされる月夜見坂さんの叫びもまたひとつの真実なんだよなあと思います。縦に縦に長い勝負の世界で、みんな上を見ているから己の足りなさばかり気にして、そこにすら届かない下の人たちのことは見向きもしない、その残酷さを強く感じました。

あと、今回の主役たちの中では辛香将司が、どんなに勝つために手段を選ばないことをしても嫌いになれなかったのが、もう作品の術中にあったというか、そういう場としての三段リーグを刷り込まれていた感じ。それでそこから、姉弟子との対局。徹しきれない甘さ、自分の人生を繫いだものにかけた優しさ、そしてそれは勝負においては致命的というのがね。人なんて顧みない雰囲気のあった天才小学生の創多と鏡洲さんの関係も、最後の昇段者となった人のことも、本当に人を描く作品だと感じた一冊でもありました。厳しい勝負の世界を描いても、コンピュータ将棋の発展を背景にしても、むしろだからこその浪花ど根性人情将棋ものなんだよなと。

で、そう思って読み終えたところ、ラストで八一の視点から描く諦めない執念の物語を、図抜けた才能があるから成立する残酷な喜劇だと切り捨てる切れ味が流石というかなんというか。三段リーグ編は終わったけれど、この先も手綱を緩めるつもりなんて一切ないという宣言のようで震えました。

そして今巻の本筋からは外れたところにありますが、見どころだったのが天衣の奇襲ですよ。こういうキャラクターが、劣勢にあればあるほど強気に自分が一番になるとぶち上げるの本当に好きなんですよね。前々から精神年齢高めのキャラでしたが、馬莉愛にツンデレロリ属性が持っていかれた結果か、10歳って半分くらいにサバ読んでんじゃないってくらいの大人びたムーブをかますのも大変に良いと思います。天衣の話は、前に丸一巻使って終わったかなと思っていたし、正直ここからどうにかなる目はないと思うのですが、それでもまだまだ終わっちゃいないと本人から宣戦布告されたらそりゃあこの先が楽しみってものです。諦めが悪いことがこのシリーズの主役たちの特質ですしね!

【ライブ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 7thLIVE TOUR Special 3chord♪ Glowing Rock! 2/15・2/16 @ 京セラドーム

 

 前々からシンデレラの楽曲の一部はこれ生バンドで聞きたいよなあって思うものがあって、だから今回テーマがRockなので生バンドです! と発表があった時は歓喜したのですが、期待を裏切らない最高のライブでした。これはバンドだよなあと思っていた曲はおおよそ聞けた。めちゃくちゃ楽しかった!

まず一曲目の「ガールズ・イン・ザ・フロンティア」の生バンド演奏が聞こえてきた時点で完全に勝利していたし、「Unlock Starbeat」で確信に変わったし、「Lunatic Show」で完全に大阪まで来た元はとったと思いましたからね。演奏本当に良かった。次のライブも曲によってはバンド入れませんかねと思うくらいに良かったです。ほら、今回やらなかったバンドで聞きたい曲、まだあるんですよ。

今回は本当に盛り上がったとか、最高だったとか、めっちゃ良かったみたいな感想しか出てこないライブです。アイマスだとかこの系統のライブは、キャラクターを見るという要素と、それを演じる役者の表現を見るという要素と、音楽のライブとしての要素のバランスの上で成り立っていると思っているのですが、今回はかなりライブの部分に重心をおいて楽しめるステージだったなと。盛り上がりすぎて私が舞台上を見ていなかっただけとも言いますが。

そんな感じの最高! とか優勝! とかしか言うことのないライブ。7thはコンセプトライブの色が強いのでどうなるのだろうなと思っていたりもしたのですが、きっちりPop、Dance、Rockのテーマを全く別のステージに仕立ててきて最高のツアーになっていたと思います。次は9月にもライブをやるということで、今後のシンデレラガールズも楽しみになるツアーでした。次は的場梨沙もミス・フォーチュンも出る(はずだ)しな!!

 

 

曲ごとに感想を。

・初日最初のブロック「Lunatic Show」からの「美に入り彩を穿つ」、「Spring Screaming」「ØωØver!! -Heart Beat Version-」「Nocturne」の流れですよ。今回はバンドで映える曲優先だぞ、攻めまくるからな? という名刺代わり5曲で、ああもうこれ最高に違いないじゃなと思いました。「Spring Screaming」好きなので、ここで生バンドで来るの最高じゃんって。そして「Nocturne」のクールなカッコよさもね、演奏で映えるの。あと、美彩もMCなのだけど、りっか様が先輩の振る舞いをするようになってるのエモくないですか??

・「オウムアムアに幸運を」
オリジナル5人は揃わずチトセとナオ2人での披露ですが、なんかもう泣けるんですよね。今回はリサ居ないけどさ、リサの歌った曲がライブで披露される訳じゃないですか。そして、昔のフュージョンみたいな感じの楽曲で、やっぱり生演奏が映えるよねと思います。

・「義勇忍侠花吹雪」
みんな大好きぶち上げ和ロック! 2番Aメロの3人ずつのソロパート最高。後ろの液晶映像が燃え上がってるのも最高。炎の演出が多いライブで凄かったのですが、この曲は背景が燃えるべきだよなって。ストーリー的に。

・「Gaze and Gaze」
フォーリンシーサイド。来るかな来るかなとは思ってたけど、こんなにクールでカッコいい路線で来るとは思わないじゃないですか。巴と憧れの瑞樹の姉御のユニットに、憧れを歌ってるっぽい歌詞がとても良いです。あと東山奈央と花井美春なのでやたらめったら歌がうまい。

・「生存本能ヴァルキュリア
誰だよVelvet Roseに「生き残れ」とか「守りたいもの守れる強さを」とか歌わせたの!

・「Trust me」
これももう生バンドありきでしょっていう曲。そして発火で火柱が上がってびっくりしました。凄い高さだったし熱かった。

・「in fact」
橘ありすというキャラクターは、この一年でありすの物語というSSRカードと、「to you for me」という曲であの頃の「in fact」からはずいぶん進んで大人橘になったのですが、それを踏まえてのアコースティックアレンジですよ。成長したありすの歌う「in fact」は全く別の色を持った歌になっていて、また新しい一面を見せてくれましたし、アウトロに「to you for me」のフレーズが入ってくるところもまた憎い。

・「Palette」
思ったよりだいぶ生演奏映えする曲だなと。PCSはなんというか絶対的安心感がある。

・「おんなの道は星の道」
これもバンド? という感じですが、やっぱ演歌は生演奏だよなあと。

・そうだよこれが生バンドで聞きたかったんだよという「PANDEMIC ALONE」。二日目に「毒茸伝説」、そしてカバーで「紅」と、もう今回の大阪は松田颯水という才能を活かし切るためのライブだと言ってしまっても過言ではなかったと思いますが、いやほんと凄いパフォーマンスでした。文句なしのMVP。星輝子はさっつんにしかできない。
二日目の「紅」のイントロは始まった瞬間完全にガッツポーズだったし、パフォーマンス半端なかったです。ラスサビ、あんなにクリアにあの声量で声が伸びていくの化け物かと。なんでこの人アーティスト活動してないの??

・「Fascinate」から 「双翼の独奏歌」のザ・中二なゾーンも本当に最高でした。「Fascinate」の生演奏最高なんですよ。サビの途中で、リズムが変わってドコドコドコドコってなるところ最高なんですよ。Velvet Rose、思ったより全然歌うまいし雰囲気持っていてめっちゃ良かったです。というか大分好きですね。どっちかと言うと、黒崎ちとせが危ない。崇めたくなる感じ。
「双翼の独奏歌」はやっぱり2番のセリフの応酬からピタッと声が重なるところね、あれが大変にすばらでした。あすらんはMCのプラトニックな関係で、あの爛れた名古屋のしきあすは何だったのかと。
そして蘭子は「夢幻ノ救憐唱 ~堕チル星ノ調ベ~」もマジ最高でした。展開がどんどん変わっていくこういう曲大好きなんですよ。初期の頃の曲も良かったけれど、蘭子のこういう振り切った曲が聞きたかったんですよ。

木村夏樹にこの思い届けな「Rockin' Emotion」にも参加していたし、「ØωØver!! -Heart Beat Version-」もあったし、とどめに二日目の「Twilight Sky」でアスタリスクPは今回生きて帰れなかったのではという感じ。トワスカはなんだろう、やっぱこれなんだよな感が半端ないです。オレンジから青にグラディエーションするドームの客席、きれいでした。

・「アンデッド・ダンスロック」
最高! 優勝! それ! みたいな語彙力になった。楽しかった。

・「∀NSWER」から「Trinity Field」の流れは6thにもあったけれど今回もやはり盛り上がるし、生バンドの恩恵を受けまくっていた感じ。「Trinity Field」は完成度的には力みのあった6thより数段上だったと思います。やっぱりトライアドプリムスがシンデレラのエースなんだよな感が凄かった。

・「HOT LIMIT
まさかのイントロにガッツポーズする私と連番者(大橋彩香推し)。いやほんとまさか聞けるとは思わなかった。後半強風を受けながら歌っていたのが、申し訳ないけどちょっと面白かったです。はっしーは今回も安定感を形にしたみたいなパフォーマンスで真ん中にいて、どんなな流れも断ち切って正しく前に進めていく進行と、それを嫌味にしない愛嬌が、アクの強いシンデレラのセンターに立つ大樹って感じでした。二日目のMCを聞いてもシンデレラの全部を背負ってるのはふーりんなんだけど、真ん中に揺るがずそびえてるのははっしーなんだよなって。

・とにかく楽しい「純情Midnight伝説」。楽しい。

・本編を「ガールズ・イン・ザ・フロンティア」でここが最前線と宣言してはじめて、「EVERMORE」で先へ先へ夢の先へと締めるのはズルいでしょ。ここでテーマはRockというところから、いつものシンデレラの色に戻して終わるのも小粋でした。

・毎回すげー好きなんですよねって言っている「Virgin Love」ですが、今回は生バンドでなおのこと良かった。シンデレラは最近本当にユニット推しが強くて、中でも特に二人組カップリング推しが強くて、このノーティギャルズも含めMCは本当にユニットでイチャイチャしており、私にとても優しい。

・「エヴリデイドリーム~マイ・スイート・ハネムーン」
アコースティックメドレー。二日目の白眉。この日はもう牧野由依松田颯水かという感じ。情感というか、情念のこもったピアノのみでお送りする「エヴリデイドリーム」、牧野由依の歌唱表現の凄まじさで、佐久間まゆというキャラクターの深淵というか、奥行きが見えるのゾワッとしました。そこから明るく笑顔の「マイ・スイート・ハネムーン」で、まゆ結婚おめでとうと思いながら、なにかどこか怖さが残っている感じも表現の凄み。曲が終わった後、会場の拍手が鳴り止まなかったのが印象的です。

・ニュージェネ新曲「Great Journey」は流れはじめて、えっなんで?? となった次の瞬間にプリコネのイベントEDだ!!! ってなっていました。曲もパフォーマンスも安定のニュージェネ色というか、普遍の安心感という感じ。

・りあむと雪美の「夢をのぞいたら」と「Sun! High! Gold!」。星希さんのりあむマジりあむっていう感じ(特にMC)で、中澤ミナは完全に佐城雪美でした。本人の成長後を見つけてきたのかな? ていう感じ。

・二日目はスタンドだったので「お願いシンデレラ」のはっしー定点カメラをしていたのですが、ドラムのところに寄っていってちょっかい出しているのを見て、よし! と思いました。いや何がよしだっていう感じですが。

【ゲーム感想】十三機兵防衛圏(ネタバレあり)

 

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: アトラス
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

ネタバレ無しはこちら。

 

 

最後までやってなるほどこういうことだったのかと腑に落ちると、やっている最中にどう思っていたのかがかなり抜けてしまったというか、今から記憶を消してもう一度遊びたいという気持ちがあるのですが、終えてみての感想を。

 

物語全体

2188年の大人たち碌なことしねーな! だとか、井田鉄也なにしとんねん! だとか、ここに至るまでに色々とあるんです。人はいつだって愚かで、執着や絶望から簡単にタブーを侵し、取り返しのつかない結末は簡単に導かれる。でもね、でも、人はそんな過去を乗り越えて、負の因果を断ち切って、進むこともできるのだと。

別にこの方舟の15人が、過去の人よりも優秀だとか進化してるなんてことはない。でも、滅び去った人類の先に、めちゃくちゃな方舟計画の先に芽吹いた命たちがあって、人の歴史はつながっていく。敵味方も善悪も話を進める中で感じ方がくるくると入れ替わる、愚かさも尊さもそのままパッケージングしたみたいな物語が、なんだか凄く、凄く良かったなと思います。

 

最初からみんな持っている知識を持ち寄ってお互いに協力していたらあっという間に解決していたこと多いんですよ。でもそうはできなかった。方舟計画はめちゃくちゃで、関係もこじれにこじれて、それが人類で、その果てだからこそ13人が力を合わせてた戦った最終決戦とこの未来が生まれた。宇宙に広がった数多の探査船の中に、そういう可能性があったという話な訳で。

 

それからこの話、生命倫理は地球に置いてきたとばかりに何でもありなのが面白かったなと。そもそもかなりマッドな感じの研究者たちが作ったクローンの存在が織り込まれた計画、記憶保存にAI化に模擬人格の構築、それをドロイドにインストールするのも、人間の脳にインストールするのも自由自在。更にはセクター0に保存されたデータから管理システムに再生される、ループ超えした人たちの存在。

そもそも舞台が仮想世界であったというところもありますが、肉体と人格の結びつきやその連続性に対して、認識はあれどこだわりがあまり無い感じがあります。DD426によるナノマシン剥離での人格と記憶の破壊を、自分の脳内ナノマシンに記憶を保存して模擬人格を構築することで、僕は僕だろ? と言ってのける沖野とかヤバくないですか?? そしてそれをみんな沖野司だと当たり前に受け入れているのも。

というかメインキャラクターたち、玉緒ドロイドだとか一周前メンバーへの扱いも、ミワコたちモブAIへの扱いも、とっくに死んだ森村博士の記憶から再生された人格である千尋の扱いも、生身の人である15人へのものと差がないように思うのですね。自分たちと同じものだと思ってる感じで、AIやドロイドに対しているという意識がそもそも無い。因幡深雪や2188年の事件のニュースを見るに、作品としてそれを認識していないわけではなくて、あくまでも彼らの作る新しい世界にはその概念が無さそうというか。

極めつけがエンディングでの、遺伝子操作でポッドに肉体を作り、仮想世界のAIたちを生身の人間として生み出すという郷登と東雲の計画で。めっちゃいい話風で語られますが、倫理的にはマッドサイエンティストの極みだなと思うのです。

そんな彼ら彼女らが、それだけのテクノロジーを持った状態から始まる新世界。どういう価値観の、どういう社会が生まれていくのか、ちょっと興味のある部分です。

 

あと余談ですが、このゲーム、森村千尋=冬坂五百里ちひろに顕著ですが、ダメ絶対音感があると真実にかなりショートカットできるなあと思ったりだとか。

 

 

キャラクターごとに雑感を。

鞍部十郎

若干存在感の薄い主人公。話は怪獣とロボット、壊れる日常、自分自身の謎と王道。

その実態は、DD426で壊れた和泉十郎の脳に玉緒(一周前)が作った人格を構築し、森村千尋は和泉十郎(426)の記憶をダウンロードし、脳内にデータとなった426が住み着きながら和泉十郎の記憶をちょっと入れようと頑張ったって、もはやキメラではそれは。なんだかんだ最終的には鞍部十郎として出来上がったようで何より。

426による誘導もあって薬師寺と結ばれたけど、この人格自体は製作者の玉緒の好みだったりしないのだろうかという疑惑が私の中に若干あります。

薬師寺の惚れた和泉十郎はまさしくヒーローという感じ。和泉十郎(426)はもう少し、何かちょっとうまいやり方があったんじゃないかとは思うものの、長い戦いお疲れ様という感じでした。エンディング、良かったねと。 

 

薬師寺

蹴り飛ばしたくなる猫型マスコットと始める魔法少女生活(武器の銃はゴツい)。あと色んな人に餌付けしてた印象。何を掛けてでも取り戻したい和泉十郎のため、腹立たしい猫に友人を撃って回らさせられる展開は辛さがありました。最終的に結ばれてよかったけど、彼女が鞍部十郎をどういうものとして受け入れたのかはちょっと分からない。

しっぽ(426)との関係は、2188年の回想を見てムカつく父親と素直じゃない娘の関係を模したものだったのかという驚きが。

というかこの作品、この人のためにはどんなことでもするっていう執着の形を見せる人多すぎじゃないですかね……。数え切れないループの中で業が溜まっていったのか。

 

関ヶ原

誰のルートに出てきても当たりがきつい。本人のルートを始めると記憶喪失で何もわからない。

ということで、なんだか好感度の低い子だったのですが、なんもかんも人当たりの悪さと井田にいいように利用された不運が悪かった。本人が常に冷徹というか、悲壮感がないからわかりにくいですが、悲惨な境遇ではトップクラスだったのだなあと。

 

冬坂五百里

遅刻遅刻と走ってたら校門前で謎のイケメンと衝突! 概念上の少女漫画! 友達と買い食いしたり恋バナしたりしながら、最終的には恋の力でロボットで怪獣にだって立ち向かっちゃう! みたいな。

森村千尋のこのループでの生体ですが、前週までの彼女の背負ったカルマから解き放たれて幸せそうで良かったです。まあ森村に記憶を植え付けられて乗っ取られそうになってたけど。

ちなみにルート分岐、猫に餌を上げるところがどうしても分からず延々と買い食いループに陥ったのが私がこのゲームで一番苦労したところです。

森村先生はなんだろう、頑張ってたのだけど、人に弱みを見せられない人だったのかなあと。 2188年の記録を消したり、自分だけでイージス作戦への変更を決めたり、この辺がもう少し誰かと協力して動けていたらと思いつつ、周りにいたのがああなった井田とかだしなあって……。

そして私が本作で一番びっくりしたのがちひろ=森村千尋クローン。三浦ルートで妹という刷り込みがあったのが完全に油断でした。そして目覚める森村博士(2188年)の記憶で、身体は子供! 頭脳は大人! な存在に。園児服の幼女が大人びたこと言ってるのですが、表情がうまく隠せなかったり、不安になると三浦から渡された縫イ包ルミを撫でる密やかなギャップが良き……ってなります。

そして記憶のコピーが簡単にできる世界で森村博士の記憶を呼び覚まされても、その存在が森村千尋のクローンであったとしても、三浦の妹としてのちひろを消さないでくれること、家族だと彼女の口から言ってくれたことが、凄く良かったなと思います。

 

三浦慶太郎

1945年の大日本帝国軍人の子。礼儀正しく真面目で思いやりのあるええ子やなあと。妹のちひろや玉緒さんを守ろうとしてるのも良い。年代設定的なところでシナリオの雰囲気がちょっと古い感じになるのも面白かったです。

南奈津乃とは運命の恋人。2188年からの縁。

1周前の三浦はAIとして機兵の制御システムになり、そこからBJというドローンになって南と大冒険をするのですが、礼儀正しく真面目で思いやりのある子なのは変わらずで、大事なデータと秘めた想いを胸に、仲間のために頑張る健気な小さいロボットになっていて最高でした。BJかわいいよBJ。

 

 

南奈津乃

宇宙大好き陸上部健康娘。BJというロボット(南は宇宙人だと思っている)と出会ったことで時間を超える大冒険へ向かう、一番ドキドキワクワクのジュブナイルをやっていた印象です。コミュ力も高くて友達も多い。この周だけでなく、あのどうしようもない2188年勢の中でも良い子。ただ、女子トイレのドロイド事件や、未来に置き去り事件等、好奇心が勝るのか危険に割と無頓着で、危ない目に多々あっている気も。

そして三浦とは運命の恋人。鷹宮とは運命の関係。

 

 網口愁

一見チャラい感じで、少し知ると世の中を斜めに見ている感じ。だけど、自分の考えはしっかり持って筋は通していくところがめっちゃ好きです。井田のこの周での生体ですが、同じ遺伝子でも環境の違いでこんなに違う育ち方をするし、主体はここにあるのだというのが、如月ではなく鷹宮を選んだことに現れているのかなと。

優先的にシナリオを開けていった結果、中盤早めに街が30キロ圏内しか存在しないことを知って、他のシナリオを読む度に、その街、実は周りは宇宙なんだぜって思っていました。

井田先生は執着の最終到達点みたいな感じなんですが、それを助けたかった如月AI自身に否定されて、すべてを犠牲にしてもループしか無いという方向に進む、ラスボス的なムーブでなんともこう。やってることは分かる、分かるけれど、その犠牲になった子たちの姿を散々見ているからどうしてもね……。そして利用しようとした東雲からの執着に邪魔されるのも因果というかなんというか。

 

比治山隆俊

帝国軍人にして、シリアスになってくる終盤にコメディ要素を一身に背負うアホの子。世界一美味いという焼きそばパンと大好きな沖野にしっぽを振る姿はまさに大型犬。そんな隆俊さんですが、軍人らしく覚悟が決まっていて、いざとなればこの上なく頼れるんですよね。

嗜好は分かりませんが、沖野の女装姿を見て一目惚れ。そこからは沖野にからかわれ遊ばれ振り回される姿が面白いです。人を人だと思ってないサイコパスな気配のある天才沖野くんが、比治山のことは気に入っていて、どんな扱いをしても絶対自分を好きでいてくれるみたいな信頼感を見せるのがいいんですよね……。2188年からの運命の2人、十三機兵のベストカップルは沖比治。

あと三浦と比治山と一緒に登場して、15人の1人な割にこの周ではあまり活躍の機会がなかった玉緒さん、2188年から1周前、今周と隙がなく真っ当な人間だったなあと。仮想現実の日本で社会性を身に着けてという博士の計画が、ねじ曲がった結果とんでもない体験を植え付けることになってはいますが……。

 

鷹宮由貴

これぞスケバンという感じの不良少女。父親のことで警察に弱みを握られ、井田の機関の手伝いをすることにという話ですが、まさかこのキャラでやるのが謎解きミステリ的な話になるのかと驚きました。

気づけば行動指針のほとんどをしめている幼馴染のなっちゃんこと南のこと好きすぎ大問題。まあ2188年での関係を考えると、感じるものがあるのかなとも。

あと鷹宮編で出てくる相葉こと玉緒ドロイド(426)が私はワトスンと楽しげで、なんだかんだ楽しんでるよなこの和泉十郎って思ったり。

 

如月兎美

ちっちゃくて可愛いけど生意気で賢くて気が強く芯も強いウサミちゃん。赤いメガネフレームが特徴的。典型的な不良で女子からの押しに弱かったりする緒方とのカップリングがめっちゃ好きです。そういうの、そういうの好きってなる。

あと、あの沖野を脅して事態の調査を始めるあたり怖いものなしやなと。

因幡深雪が1周前の如月というのは、網口編を先に読み進めていたことで逆に気がつかなくて、ああああ! となったポイントでした。そして生命倫理をぶっちぎりまくる物語の中で、如月(1周前)だけは現代の感覚で話してて馴染みやすい。

 

緒方稔二

突然始まる謎のループもので初めた瞬間??? となる緒方編。それが如月編を後からやって、このシーンか! ってなったり、比治山と沖野が何をしようとしていたのかを知ると話が繋がるのだからよく出来てるよなと。

緒方はまさに不良というリーゼントの男。喧嘩っ早い一匹狼のようで、筋の通った人情には厚いキャラクターで結構好き。如月とは本当にナイスカップルだと思います。

 

東雲涼子

DD426に侵されて記憶が失われていくわ、2064年の戦いの影響で傷だらけだわで、痛々しさのある東雲先輩。色々な人のシナリオで何かしてると思ったら、まさかこんな無為な活動に精を出していて、それが記憶障害のせいだなんて思わないじゃないですか……。起きる度に426を追うことだけを繰り返し、自分がやったことすら忘れているって、ほとんど痴呆症みたいな。

井田に執着し、井田の言うままにDD426を仕掛けて自らも侵され、井田の如月への執着を知って手にかけ、その記憶すら忘れて井田を想う。おまけに2188年では人類に絶望し、方舟計画をダイモスの襲来で無限ループに陥らせた張本人という、なんというか、もうなんというかなキャラクターなのですが、嫌いにはなれないと言うか、必死だったんだなというのが分かっちゃうのがやるせないです。

完全に人格が崩壊した後は、2064年の訓練時の記憶をダウンロードして、なんとなく落ち着いていた感じ。そしてエンディングの郷登との関係は額面通りに受け取っていいのか……?

 

郷登連也

メガネクイッとしながらメモをとる秀才タイプで合理性と効率性を是としていながら、その根底に森村先生への執着があるの、この作品のキャラクターらしいと思います。

終盤に開放できるシナリオで、ちひろ(森村博士)を問い詰めながら真相を解明していくことになるのですが、傍目に見ると幼稚園児を理屈で詰めまくる男というヤバい絵面になっているのがちょっと面白かったです。

東雲の元カレということで、過去の記憶で復旧した東雲先輩と結ばれたような雰囲気をエンディングでかもしだしつつ、この2人、井田と森村を遺伝子操作&ポッドで現実世界に召喚するために協力しているのでは??? という疑念が拭えない……。