【マンガ感想】メイドインアビス 9 / つくしあきひと

 

 いやー、ファプタ…………ファプタ辛いな……。

前の巻では深界六層成れ果て村、人ならざるものの領域だと思わせていたものが、極限環境で人の業が煮詰められた果てのものだったことに言葉を失ったのですが、いやしかしそこにレグたちがやってきたことで至る帰結がこれとは。容赦がなくて、けれど善悪で切って捨てられるような安易な逃げ道もない。アビスに潜るとはどういうことかを見せつけられ続け、それでも進み続ける物語なのだと思いますが、それにしたって。

リコは探窟家であり、そっち側の人間だというのはボンドルドの時にも言われていたので、まあそうだよなとか。イルミューイの受けた仕打ち、決死隊の末路に村の成り立ちを考えればファプタはそう在ることしかできないよなとか。その上で記憶を失ったレグが、レグらしく答えるならばそう行動するよなだとか。それが全部噛み合った結果がこれでしょう、いやあ。

あとこの物語、思いを引き継ぎ背負った上で先へ先へと潜っていく、継承の物語でもあるのだなと思いました。ナナチが過去を振り切って、受け取ったもの。プルシュカの想い。全部を連れて皆で底を目指していくのだなと。

しかしこう、かつて結婚を約束して旅へ送り出した男が、記憶喪失になって別の女を連れて帰ってきたみたいになってるんだけどファプタさん、レグの大切なものだからと隠れて世話焼いてるの良い子なんだよな……。でも村の人たちも、食堂のおかみさんとか基本良い人たちなんだよな……。

【映画感想】少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド

 

 TVシリーズの総集編は総集編でも「再生産」総集編。レビュースタァライトという作品のテーマと密接に関わったその言葉が、作品に対してもう一度働きかけた結果何が生まれるかを見せつけられるような映画になっていました。

基本的には総集編で、華恋とひかりを中心にしてまとめられたTVシリーズです。ただ、予告でもフォーカスされていたななの新規シーンが差し込まれたり、話運びやレヴューシーンにも改変が施されていて、ただの総集編ではない感じ。

とはいえダイジェストではあるので、TVシリーズからして概念をそのままお出しされるような作品だったものが、より抽象化されてなかなか難しいなと思いながら見ていたのですが、戯曲スタァライト、大場ななによる再演、アタシ再生産、そして華恋とひかりの運命という大きな仕掛けを通して作品を貫いていたものは非常に純化されて分かりやすくなっているなと思います。

この物語では、全く同一のキラめきを「再演」するというななの望みは完膚なきまでに否定されます。学園生活の三年間で三度演じられるされる戯曲スタァライトに二度同じ舞台はなく、舞台少女たちは過去の自分を燃料にして、新しい舞台に常に新しい自分で生まれ変わり(「アタシ再生産」)、運命の二人による予想もつかない舞台は時に結末さえも変えていく。そうして生まれる舞台上のキラめきは一瞬にして永遠。瞬間に燃やしつくされるもの。

そしてそれを肯定するのがレヴュースタァライトという物語であるならば、「再生産」総集編がただ繰り返すだけの総集編であって良いはずがないのです。TVシリーズは燃料となり、常に新しいものとして「再生産」されるからこそ、この改変は必然だった。尺的なところもあってカットされて残念な部分もありましたが、例えば新しいレヴューシーンのふたかおなんて、なるほどこういう方向で解釈が進んでいるのか……という深められた驚きがありました。

そして、そうやって再生産されていく物語の最後に「再生讃美曲」という主題歌がかかって、その上で歌詞から取り出されるキーワードが「選ばれなかった過去たちへ」であり、提示されるイメージが「舞台少女たちの死」なんだから本当もうさあ! ってなるじゃないですか。

すでに選ばれなかったたくさんの再演というループの上に、この物語は立っている訳です。燃やされて、再生産された、選ばれなかった過去たち。届かなかった舞台少女たち。運命の舞台がまだ続くというのなら、向き合わされるのは舞台の下に積み重ねられたその死体たちになるのではないかと。そう思うと、来年公開の新作劇場版が怖くなると同時にとても楽しみになる、そんな再生産総集編でした。

【舞台感想】We are RAISE A SUILEN ~BanG Dream! The Stage~

 

ERA【Blu-ray付生産限定盤】

ERA【Blu-ray付生産限定盤】

  • アーティスト:RAISE A SUILEN
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: CD
 

配信で視聴。現地とは別物だけれども、現地に行くことができるか、行けるとしてもチケットが取れるのかがわからない以上、これはこれで今後もやってほしいなと思います。

 

ブシロードのキャラクターコンテンツはこういうものだというのを見せつけたような舞台でした。本来、RASのメンバーは舞台本職ではないというか、そもそも演技本職ではない人もいて、ライブはわかるけどなんでまた舞台と思うところはあったのです。でも、リアルバンドのライブもアニメもゲームも舞台も同じキャラクターを一体のものとしてキャストがやる、しかも基本は同じストーリーを見せ方を変えながらというのが、こういうふうに見えてくるのだという驚きがありました。

一貫してキャラクター=キャストであることの強みというか、キャストの経歴も踏まえてキャラクター設定されてることもあって、本当にキャラクターにしか見えないし、その上で同じ物語を塗り固めていくことで確固たるものになっていく。私たちはRASのフロントだとキャストが言った意味がわかるというか。

ライブだろうが、アニメだろうが、舞台だろうが、それぞれでの最善を目指すのではなく、その確固たるもの=キャラクターの魅力が全てに優先されるからこそのキャラクターコンテンツなのだろうと。あと、このリアルとキャラクターを一緒くたにして作っていく感じ、プロレス団体を持っている会社だなあと思いました。

 

舞台の中身としては、アニメでもガルパでも語られているRAS結成の物語をもう一度語りながら、その前とその先を補足していくようなお話。思い通りにならなかった世界を変えてやると一人楯突いたチュチュの物語を、初めは手駒としか考えていなかったメンバーたちの存在が、5人のバンドの物語にするまでが描かれます。

RASって本当に手に入れたいものは何も得られなかった人間が叫び声を上げて世界に噛み付くような、反逆と革命のバンドだと思うのですが、それって100%純粋にチュチュのエゴであって、彼女の物語でしかありません。でも、全員が「覆い隠すもの、封じるもの」という意味の名前を与えられたメンバーたちにも秘めたるものがあって、それはチュチュに拾い上げられたからこそ音になった。だから彼女たちは行き詰まったチュチュを見捨てずに手を伸ばすし、そこで初めてRASは5人の物語になり、チュチュはRASについて「私の」という枕詞をつけて語ることをやめます。

アニメでそのターニングポイントで4人から送られる曲が「Beatiful Birthday」なのですが、これ、あなたが世界に愛されなくても、あなたが世界を愛さなくても、私たちがあなたを愛すよっていう歌で、なんか舞台で初めて聞いたフルだとそれに私もって返してましたよね、私の気のせいじゃなければ。いやあ……それはちょっとエモが過ぎる。そしてこの5人で閉じた世界を「神様なんて いらないくらいの 完璧な Beautiful World」って言い切れてしまう稚気とそれ故の強さがまさにRASという感じで、本当にしみじみと噛みしめるように好きです。

そうやって5人の物語になったRASですが、それによって逆にチュチュを中心とした、チュチュが初めた、チュチュのバンドであるということが明確になったような感じもあります。チュチュが抱えていた、叫びたかったものが、4人の存在によって確固たるバンドの色になったというのが、ここまでの物語だったのだと思いました。

 

あと、アニメでのチュチュが行き詰まっていくまでの状況に対してのパレオの心情が補足されたのですが、道を外していくチュチュに対して私だけが最後までそばにいればそれでいいから何も言わなかったというの、あまりにもパレオって感じで大変良かったです。結局彼女は貴方だけがいても仕方がないと言われてしまう訳ですけど、いやでも君はそういう子だよ。

【小説感想】吸血鬼に天国はない 3 / 周藤蓮

 

吸血鬼に天国はない(3) (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない(3) (電撃文庫)

 

「そして、生きている人は皆溺れています」

 やっぱりこのシリーズめちゃくちゃ好きだなと、強く思った一冊。この低いところで不安定に安定している感じ、ザラッとした手触り、空虚と欠落を並べ続けて切実を描き出す手付き、凄く好みです。

脱獄した『ボーデン家の死神』。彼女が街に起こした混乱に、シーモアもルーミーもそれぞれに巻き込まれていくという話なのですが、別にこう死神をやっつけるぜみたいなノリは当然なく、そうならざるを得なかった人たちが、それでもしがみついたその場所で、そういう繋がりを描いていくという物語。人を糧として生きる『吸血鬼』も、死体を積み上げる『死神』も、超常そのものすらあんまりにも普通なことに絡め取られて、もがき生きるしか無いという、それだけの話でもあります。そしてそれは、陳腐にも愛と呼ばれるものであると。

キャラクターもその関係性も雰囲気もストーリーも全てが大変に好みなのですが、しかしこれエンタメ的なものを期待して読むと、キャラクターの動きは理解できないし、盛り上がるべきところで盛り上がらないしで、非常に取っ付きにくいのではという余計な心配もしてしまったり。でも私は本当に好きなので、このままで続いてほしいなと思うシリーズです。

【小説感想】86 -エイティシックス- Ep.8 ガンスモーク・オン・ザ・ウォーター / 安里アサト

 

 今回機動打撃群が派遣されるのはレグキード征海船団国群。人類の海への進出をかけて<原生海獣>との闘いを続けてきた船団国家は、レギオンとの戦争に消耗し、海上に出現した電磁加速砲型からの砲撃により、消滅の危機に瀕していて。

対レギオン戦争が人類の圧倒的な劣勢であり、その中でも無茶な作戦を実行するための機動打撃群なのだから当然ではあるのですが、また今回も死闘に次ぐ死闘という一冊。次から次へ迫る危機に、このシリーズは流石に主要人物死なないでしょという気持ちと、いやこれはちょっとあかんのではという気持ちが天秤の上で揺れているみたいな感覚になります。

そんな戦闘の中、あるいはその前に描かれるのはやはりエイティシックスたちの物語で、誇りと共に闘い続けることを在り方とした彼らに、戦後という可能性を突きつけていく話。そして、シンの話の次は残りのメンバーということで、今回フォーカスが当たるのはセオ。誇りに生き、その先に何も残らなかったとしても、最期まで闘い抜く艦隊の姿に、<シリン>の姿に何も残さずに死ぬことを突きつけられた彼が何を見るのかというものでした。本当にエイティシックスに対してはひたすらに厳しくて、けれど優しい物語であるなと改めて思います。

それからこの巻は船団国家の人達が本当にね。1つの征海艦隊を家族とし、その長を長兄とする国家の、最後に残された寄せ集め艦隊の最後の仕事。レギオンに対抗できる国ばかりではないと言われてきても、今まさにすり潰されようとしている国を見せられるのはまた違うものがあります。

ボロボロの街で盛大に行われる伝統のお祭り。機動打撃群を電磁加速砲型へ運ぶための艦隊の出港に集う街の人々。先に出た囮艦隊は練習艦に退役軍人を乗せた決死隊で、本隊からも次々と囮に出た艦が沈んでいく、全ては征海艦隊の誇りのために。それは哀しく辛い闘いであると同時に、気高く尊いものにも見えて、この滅びはロマンでもあるんだよなあと思う闘いでした。この作品で出てきた国で一番好きです。

そんな感じで、あらゆる方面から、このシリーズは感情を大振りのハンマーで何度も殴ってくる作品だなと改めて思わさせられるような一冊でした。次も楽しみですが、ちょっと怖くもあります。

【小説感想】父親を名乗るおっさん2人と私が暮らした3ヶ月について / 瀬那和章

 

 シングルマザーの母に育てられた高校2年の由奈。ただ1人の家族だった母を病気で亡くした彼女の前に、自分が父親だと名乗るおっさんが2人現れ、親戚たちに厄介払いさっれるように由奈は後見人になったおっさんたちと暮らすことになり……というお話。

自称父親のヤンキー系おっさんと、眼鏡のエリート官僚風のおっさん。前向きな反面緩かった母親を反面教師にきっちりした性格に育ち、困ると男に頼る母を嫌ってもいた由奈は、突如現れたおっさんたちにも当たり前ですが反発し、自分の力で生きていこうとします。けれどその視野の狭さと頑なさを、おっさんたちと母親の思い出から浮かび上がってくる知らなかった母親の姿が、そしておっさんたちと暮らしていく日々が少しずつ変えていって。

設定的にはもっと刺激的にだってできるような話だと思います。でもこの物語は由奈の気持ちと、母親やおっさんとの関係を丁寧に丁寧に追っていきます。自分に見えている他人のあり方なんてほんの一部で、失われるものもあれば生まれていくものもあって、そういう世界に人は人と関わりながら生きている。きっと、家族にだってなれる。言葉にすれば陳腐にもなるようなことを、折り目正しく、優しい目線で、しっかりと物語に組み上げていく、真摯で魅力的な作品でした。

とにかく、人間とその関係性に対しての信頼感が根底にある話だと思います。結果的に悪くはたらくことはあっても、悪人はいない物語というか。おっさん2人も、母親も、一見すると反発したくなるけれど、新しい一面が見えてくる度に好きになっていけるキャラクター。終盤に登場するある人物も、腹は立つけれど、彼なりに筋を通そうとした結果だというのは分かる。そういうところが作品の空気感を作っていて、この世界も捨てたもんじゃないね! という、誰かを信じたくなるような読後感を生み出しているのかなと思いました。

【マンガ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 6 / バンダイナムコエンターテインメント・廾之

 

 毎回原作キャラクターの描き方が丁寧で愛のある漫画だと思うのですが、この間に収録される櫻井桃華の回と古賀小春の回はその中でも出色だったと思います。特に小春回は素晴らしかった。

大人びていて品のある桃華というキャラクターの、年相応な姿。それを出演したバラエティ番組から求められる「子供らしさ」ではなく、櫻井桃華のありのままと上品さを、アイドルとしての姿を通して見せるのが良かったです。③のラストの「あぁ、怖かった!」の笑顔とそこに繋がる流れが完璧。あと、ももぺあべりーの3人のライバル感というか、見た目に似合わないバチバチした感じが大変好みです。

それから、バラエティ番組で輝く幸子先輩、ボクはカワイイに込められた自信と自負、そしてプロ意識が本当にかっこいいなと思いました。

小春は喋りも性格もふわっとしていて、お姫様に憧れる要素とイグアナのヒョウくんを連れているギャップが印象に残るキャラクターなのですが、正直担当外であまり良く知っているわけではありませんでした。なので、仕事を通して見えてくる動物全般への愛と、おっとりしているようで前向きで芯の強さがある魅力に、ああこういう子なんだなと思った話でもあり。そしてこの話、先輩アイドルとしてのみくからの小春とプロデューサーへのある指摘が鋭くて、そこをなあなあにしないのだなという真摯さを感じたのと、それを受けて一歩を踏み出す小春の描写が大変良かったと思います。

ストーリー上で無理に刺激的な展開を作る訳ではなく、あくまでもアイドルとしての仕事の中でこれだけキャラクターの掘り下げをして、その魅力を見せてくれるのだから、本当に作品ファン冥利に尽きるシリーズです。

 

作品とは関係ない話ですが、紙媒体が一般流通に乗らなくなって電子版も版元が変わるならもうちょっと周知のしようがあったんじゃないかと、サイコミには思うところが。素敵なコミカライズなので、本屋に並ばなかったせいで続刊が出たことに気付かれない、なんてことがなければ良いなと思います。