2020年の5作(マンガ)

電子書籍の便利さが分かってきて、色々とまとめ読みもした1年でした。紙の書籍だと置く場所が……となっても、電子ならどれだけ買ってもでも大丈夫。あと何だかんだ少年ジャンプって面白いなと思った1年でもあります。

 

BURN THE WITCH / 久保帯人

BURN THE WITCH 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

BURN THE WITCH 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 読み切りから待ちわびた本連載。好き。ただただ好き。

【マンガ感想】BURN THE WITCH 1 / 久保帯人 - FULL MOON PRAYER

 

鬼滅の刃 / 吾峠呼世晴

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

やっぱり流行るものには流行るだけの面白さがあるんだなあと感じた鬼滅。一番好きなのは童磨戦。蝶屋敷組の闘いは哀しみと儚さの中に折れぬ強さがあって良い。

【マンガ感想】鬼滅の刃 1-23 / 吾峠呼世晴 - FULL MOON PRAYER

 

葬送のフリーレン / 山田鐘人・アベツカサ

 これもやはり流行るものには流行るだけの面白さが。かつて勇者一行として旅した道程に長命種は何を見つめるのかという過去への視点を軸にしながら、今と未来への目線も確かにあるのが良いなと思います。

 

とある科学の超電磁砲外伝 アストラル・バディ /  鎌池和馬・乃木康仁

 今年完結。かつて能力開発の研究施設で育った女の子たちの間の、才能格差とこじれにこじれた巨大感情の物語。良き。

【マンガ感想】とある科学の超電磁砲外伝 アストラル・バディ 1-3 / 鎌池和馬・乃木康仁 - FULL MOON PRAYER

【マンガ感想】とある科学の超電磁砲 外伝 アストラル・バディ 4 / 鎌池和馬・乃木康仁 - FULL MOON PRAYER

 

 虚構推理 / 城平京・片瀬茶柴

 いやー可愛かったですね雪女。お幸せに。 

【マンガ感想】虚構推理 13 / 城平京・片瀬茶柴 - FULL MOON PRAYER

 

2020年の6作(小説)

通勤時間がなくなるとこんなに小説を読まなくなるとは思いませんでしたねと……。来年は家でもっと小説を読む習慣をつけることです。

 

ツインスター・サイクロン・ランナウェイ / 小川一水

 めちゃくちゃ出来の良いSFアニメ映画を見たような読後感のあるハイスピード宇宙漁業百合SFエンタメ。最高に面白いです。

【小説感想】ツインスター・サイクロン・ランナウェイ / 小川一水 - FULL MOON PRAYER

 

恋に至る病 / 斜線堂有紀

恋に至る病 (メディアワークス文庫)

恋に至る病 (メディアワークス文庫)

 

 狂っていく、沈んでいく、地獄へと落ちていく。寄河景という存在が放つ引力。

【小説感想】恋に至る病 / 斜線堂有紀 - FULL MOON PRAYER

 

タイタン / 野崎まど

タイタン

タイタン

 

 AIが人間の仕事を代替した時代に、仕事を放棄したAIをカウンセリングするという斜め上の出発点から、世界規模おねショタグレートジャーニーが展開する、野崎まどの展開力に押し流されます。

【小説感想】タイタン / 野崎まど - FULL MOON PRAYER

 

りゅうおうのおしごと! 12 / 白鳥士郎

りゅうおうのおしごと!12 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと!12 (GA文庫)

 

 将棋と将棋星人に恋をした女の子が挑む三段リーグという修羅の世界、その決着。人間たちの壮絶な闘いの物語は、浪花ど根性人情将棋小説の真骨頂でした。

【小説感想】りゅうおうのおしごと! 12 / 白鳥士郎 - FULL MOON PRAYER

 

安達としまむら 9 / 入間人間

安達としまむら9 (電撃文庫)

安達としまむら9 (電撃文庫)

 

 入間人間の百合は「エンドブルー」「佐伯沙弥香について」も良かったですが、この巻の日野と永藤の話はキレキレ具合はちょっと凄いなと。

【小説感想】安達としまむら 9 / 入間人間 - FULL MOON PRAYER

 

推し、燃ゆ / 宇佐見りん

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 「推しって何?」と聞かれたら自信を持って差し出せる一冊。その救いも、その業も、ここに。

【小説感想】推し、燃ゆ / 宇佐見りん - FULL MOON PRAYER

2020年の振り返り

コロナで何も変わってしまった2020年。ライブ/イベントに週1以上のペースで行って、楽しみも友人に会うことも全てがそこにあった日常が唐突に消え、そしてそのまま戻ってこない1年でした。続々と始まった配信ライブももちろん良いけれど、現地には現地だけの魅力があって、それが失われたことはやっぱりショックも大きくて。そしてそれは、きっと来年も、もしかしたら二度と戻らないかもしれないのかもなと。

そんな中でどうしていくのかを考えざるを得ない状況ではありますが、新しいものに手を出すことは減ったものの、相変わらず趣味に生きていることは変わりない。そんな2020年の振り返りを、別エントリで書くつもりの小説とマンガ以外で。

 

 

アイドルマスターシンデレラガールズ

2月に滑り込みで開催された7th大阪ドーム公演。初の生バンドでの単独ライブが最高に楽しかったことはこの先もずっと覚えているだろう思い出になりました。本当にシンプルに最高だった。

そして今年は推しの供給がヤバかった一年。何はさておきビートシューターのユニット曲&デレスレイベントが来たこと、感慨深くて、もうね。的場梨沙は他にもオウムアムアイベントに2枚目SSR、U149のお当番シリーズに24時間放送でのライブ初披露、しんげきえくすて本編&ED曲とボイス前ならありえない勢いの供給があって、ただただ噛みしめるような1年でした。それもこれも9位には入れなかったけれど、10位に入った昨年の総選挙のおかげな訳で、本当に良かったなと……。

あとこのイラストで私は死んだ。ありがとう廾之先生。

 来年は1月にリスアニライブでビートシューター出演で何かもうゴールしそうな感がでてきておりますが、ももぺあべりーのユニット曲とライラさんへのボイス実装も諦めずにいたいと思います。あと、年始は飛んでしまった有観客ライブも、いつかできると良いねえ……。

 

プリンセスコネクトRe:Dive

相変わらず毎日触っているプリコネ。今年は何よりもアニメ化の成功に尽きる1年だったなと思います。

プリンセスコネクト! Re:Dive 4 [Blu-ray]

プリンセスコネクト! Re:Dive 4 [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: Blu-ray
 

このすばの監督がそのノリを持ち込んだ作風、ゲームとは違うストーリーを美食殿+主人公の4人をメインに他はゲストキャラとした割切り、記憶をなくした主人公を可愛いキャラクターとして描くというウルトラCの全てがハマって、贔屓目抜きでも面白いアニメになっていたなと。2期も楽しみ。

ゲーム本編の方は第2部ストーリーが進んでいるところ。なんだか真っ当に面白いのですが、第1部の持っていたピーキーさが無くなったのはちょっと寂しさもあり。あの日日日らしい狂い方が好きだった。

 

十三機兵防衛圏

十三機兵防衛圏 - PS4

十三機兵防衛圏 - PS4

  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: Video Game
 

 数多くのキャラクター、時間軸が絡み合い、複雑に編み上げられたストーリーを、プレイヤーごとの切り口で解釈していくという、無ニの体験が味わえたゲームでした。

こういうことなのでは……? えっ何これ全然意味わからない? マジかーそう言うことか……! あたりの感情を行ったり来たりして進める手が止まらなくなるというのは、本当に特別な体験だったなと。

 

BanG Dream!

バンドリ全体というかRAISE A SUILENの話になりますが、きちんとバンドリ世界のキャラクターになっていった1年だったなと思います。

アニメ3rdシーズン、まさかの舞台、そしてガルパ実装まで、RASの結成にまつわるエピソードを何度も何度も繰り返す描き出すことによって、キャラ無しのバックバンドからスタートした演者とキャラクターが一つになっていく過程が見れたのは、他のコンテンツでは見たことのない面白いものが見れたなと。あとチュチュが好きなんですよね、自分だけの世界を抗って闘ってる感じ。そしてそれが5人の闘いになるストーリーが良かった。

ERA【Blu-ray付生産限定盤】

ERA【Blu-ray付生産限定盤】

  • アーティスト:RAISE A SUILEN
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: CD
 

そしてそれを受けてのライブ、まさにバンドリというコンテンツの1バンドとしてのRASが確立されたパフォーマンスだったと思います。来年は生で見たい。

 

リングフィットアドベンチャー

リングフィット アドベンチャー -Switch

リングフィット アドベンチャー -Switch

  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: Video Game
 

 今までの人生で、筋トレも運動も何一つ続いたことがなかった人間が、2月の購入から今までほぼ毎日、毎日20分程度ですが続いているというのが、もうありえないことであり、このゲームの圧倒的価値です。なんであれ続かなければ意味がないのだから、これはもうゲーミフィケーションの勝利。ありがとう任天堂、これがなかったらリモートワークの日々は致命的な運動不足に陥っていたに違いない。

 

新日本プロレス

大多数のスポーツイベントもいったん動きを止めた1年でしたが、だからこそスポーツを見られることがどれだけ楽しみになっていたのかを再開された野球やF1を見ながら思ったし、そういう苦境だからこそ、その状況すら物語に取り込んで続いていくのがプロレスであるんだよなと思います。開催できなかった期間、声を出せない状況でも対策を万全にして続けた有観客興行、来日できない外国人選手も多い中でも展開された数々の闘いを新日本プロレスワールドの配信で見れたことが、救いになっていた部分はすごく多かったなあと思います。

試合の方はタイチが本当にプロレスの上手いヘビー級レスラーになったなあという感じで好き。ザックとのタッグも良き。来年はいまだに何なんだかよくわからないTHE EMPIREの動きと、IWGPヘビーチャンピオンとしての飯伏の姿が見られることを期待しています。

あと、毎週30分のテレビ放送が始まったので女子プロレスのスターダムも見始めたのですが、これが結構面白いです。ジュリアvs中野たむ、情念の闘いっていう感じで凄まじかった。

 

音楽

今年の1曲なら「リテラチュア」だし、今年の1枚なら「Empathy」というくらい、上田麗奈のアーティスト活動が印象的でした。声優が音楽活動をすることに、すべての曲を演技として表現するという一つの答えを聞かせてくれる楽曲たち、素敵でした。

Empathy

Empathy

  • アーティスト:上田麗奈
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: CD
 

 

今年は大橋彩香の「WINGS」、ナナヲアカリの「七転七起」と好きなアーティストの成長と変化を感じられる新アルバムが出たことも嬉しかったです。ナナヲアカリの「Higer's High」なんて、ダメ天使からこんな覚悟と決意の曲が出てくるなんて思わないじゃないですか。ああなるほど、ああいうところからスタートした人たちが、こうなっていくのかという面白さ。

SUPER BEAVERにハマったのも今年。JAPAN JAMが中止になったときに配信された過去ライブ映像で見て惹かれて、メジャー再デビューの波に乗ったという感じ。活動も長く、酸いも甘いも味わった上で、それでもこのストレートなメッセージを衒いもなく放てるというのは、すごい強さで、だからこその輝きがあると感じます。本当に「ハイライト」がめちゃめちゃ良い曲で。

あと岸田教団&The明星ロケッツの「nameless story」がとある科学の超電磁砲のEDだったのですが、もう本当に食蜂操祈の曲でしかなくて、アニメを見たあとにフルで聞くと泣きそうになるのは、まさにアニソンの強さだったなと。

それからキャラソンではMashumairesh!!の「キミのラプソディー」がこの言葉、この真っ直ぐさという感じで良かった。設定上の作詞がマシマヒメコでこの歌詞はあかんでしょっていう。

ストレイライトの「Hide & Attack」もこのキャラクターだからこそのこの言葉、この曲調というのが良き楽曲でした。冬優子にサビでソロを取らせるのそこ! って。シャニマスは「Dye the sky.」も力と覚悟を感じて良かった。アイマスだとシンデレラの「Brand new! 」がまさしく新時代を感じさせるメンバーと曲になっていて素晴らしかったです。

あとは電音部の黒鉄たまいただきバベル」があまりにも趣味にストライクで最高でした。女性声優のラップだとヒプマイの「Femme Fatale」もReolの曲をドスの利いた声で歌いこなす小林ゆうに痺れました。

 

アニメ

いや、「ハイキュー!!」めちゃくちゃ面白いですね。すごい、試合して無くても面白いし、試合してるともう最高に面白い。これ以上はないじゃないって感じだったのに、原作読者に次の音駒戦はもっと凄いと聞いたので、早く次のクールを作ってくれと願うばかりです。

イエスタデイをうたって」は冬目景の原作が大好きなので、まさか今になって、しかもこんなクオリティでアニメ化されるなんて感無量でした。ハルが素晴らしく可愛かった。

原作ファンとしてという意味では「虚構推理」もおひいさまがおひいさまをしていて良かった。二期も楽しみ。そして「安達としまむら」もまさかのこのタイミングで、しかもあんな地の文メインの繊細な関係性の表現で成立した百合ものをと思ったのですが、モノローグとイメージ映像で素晴らしいアニメ化されていて大変に良かったです。伊藤美来しまむら、最高の演技だったと思います。2期をくれ。あの電話の流れが見たいんじゃ。

魔女の旅々」は硬軟織り交ぜたクソみたいな話というか、本当に糞みたいな話……っていうシリアスと、馬鹿話のコンビネーションが楽しいアニメ。イレイナさんが本当に良い性格していて好きでした。下品と可愛いは両立すると証明した「おちこぼれフルーツタルト」の、やらしくならないギリギリのラインをちょっと踏み越えたところでバランスを取り続ける感じも面白かったです。

あと「とある科学の超電磁砲T」は高値安定で、食蜂操祈が好きなので本当にもう大変良かったです。泣いた。アストラル・バディのアニメ化も頼む。

それから「ID : INVADED」、舞城作品がまさしく舞城作品としてアニメ化されているの、凄いなこれって思いました。ツダケンの演技もとても良かった。

映画では、「メイドインアビス-深き魂の黎明- 」が本当に度し難い話が完璧に映像化されていて、こう、なんだ。プルシュカ……。「Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅲ.spring song.」はなるほどこうなるのかっていう。桜、好きです。そしてEDで流れる「春はゆく」が沁みる。梶浦由記の音楽繋がりでは「鬼滅の刃 無限列車編」もあの話の後に流れ始める「炎」がヤバすぎました。レコード大賞、おめでとうございます。

【小説感想】こわれたせかいのむこうがわ 2 ~少女たちのサバイバル起業術~ / 陸道烈夏

 

 1巻がディストピア国家からの脱出するところまでを描いていたので、その続きと言っても何をするんだろうと思ったのですが、いやこれ2巻の方が全然面白いです。むしろ本領発揮という感じ。抑圧された世界を描くよりも、開けた世界でヤバい奴らが景気よく闘っていたほうが、文章も物語も生き生きするタイプの作家なのだと感じます。

独裁国家チオウから脱出したフウとカザクラですが、逃げ延びたアマクニで今度は謎の組織ゴトクテンの長であるリリに捉えられて、奴隷扱いされる生活からまた脱出、そして橋の上に気づかれた都市アマテラスでの全面対決まで一気に駆け抜ける一冊。

とにかくぶっ飛んだキャラクターや組織が一から十まで大仰でケレン全振りという感じ。そして細かいことは気にするなと言わんばかりの語りの勢いが読んでいて気持ち良いです。過剰なまでのフックでずっと飽きさせずに引っ張っていくのは、小説というか、口頭で語る物語を浴びているような感覚があります。

とはいえハチャメチャにドンパチするだけではなく、前巻ではラジオから知識を得て窮地を抜け出したフウが、今度は手にした情報をどう見極めていくかという壁を仲間の力で超えていくところだったり、悪を自認するリリにも彼女の確固とした組織運営術があったり、地に足のついた話を織り交ぜるのが面白いバランスだなと思います。

新キャラもなかなか強烈な人が多いですが、拉致した人々を洗脳して支配する、組織のために必要であれば人命すら、それどころか長というパーツとしての自分の身さえも顧みないリリ・陽天の在り方が良かったなと。生来持った真面目さと狂気に理不尽な境遇が合わさった結果が行き過ぎて、「虚」と「悪」を自認する姿、割と好きです。そしてそんなリリと、目的のためにやっぱり何も顧みないところがあるフウの類似性が示唆されるの、超えてはならない一線のあちら側とこちら側のようで面白いなと思いました。いや、フウが超えていないかというと、そこに若干の疑念は、無くもないですが。

そしてそんな少女たちが組織と軍事力を率いて正面衝突するのだから、それはイかれた大騒ぎにもなりますし、そこでなんだかよくわからない奴らが大激突しつつ、最後はご都合過ぎるくらいの大団円にもっていくパワーがある物語ならば、そんなの面白くない訳がないじゃないと。大変楽しかったです。

ただ、帯に「少女たちの可愛い生存戦略」とあるのは若干の詐欺なのでは。この生存戦略、どこかに可愛さあったかな……。

【小説感想】エンドブルー / 入間人間

 

エンドブルー (電撃文庫)

エンドブルー (電撃文庫)

 

 入間人間による百合短編集、ですが流石にこれを単独で読めるから何の注意書きもないと言うのはどうなのかもと思う、「クロクロクロック」と「少女妄想中。」の後日譚。

私は「クロクロクロック」の方は最後まで読んでいないので知らずに読む形になって、それはそれでも十分面白く読めましたが、「少女妄想中。」はこれもう知らずに読むのと知って読むのでは破壊力が違いすぎるのではという感じだったので、「クロクロクロック」も既読者からするとそうなのかも。読み始めは蛇足なのではと思わせておいて、ものすごい切れ味で斬られたという感じがありました。

『ガールズ・オン・ザ・ライン』『雅な椀』は陶芸家の弟子と裏稼業に身を置く女の、ちょっとインモラルな空気のある関係から始まる物語。ふわっとしているというか、馬鹿で役立たたずと自己評価しているから他人と関わろうとしなかった子と、命の危険と隣り合わせの世界で半身のようだった兄を失った女の間に生まれる関係性が、変わり種ながらこういう感情の動きを描かせたら流石と思いました。

そして『光る風の中』『今にも消える鳥と空に』。

かつて、自分だけに見える「彼女」を追いかけて、この世界から消えてしまった幼馴染。そのまま時を重ねていくうちに、自分のことを好いてくる、自分の片目を傷つけた姪との関係が生まれて、そして今。二度と重なるはずのなかった二人の世界が、鳥に導かれるようにして、時間も距離も超え、白昼夢の中に重なります。

好きだったあの人は、何も言えないまま、何も言わずに消えてしまったから、再会を通じて本当の別れに至る。そういうエピソードなのですが、これがまた凄いキレで。

あの時の姿のまま変わらない彼女と、歳を重ねて変わった自分。自分の足で走って手を伸ばして何かを掴んだ彼女と、片目を失うことで何かを手にした自分。誰もいない無音の街と真夏の刺すような熱の中で浮かび上がるその対比が、もう決して交わらない二人のつかの間の交錯であることを際立てて、けれどその一瞬に行き場を無くしていた想いは集約される。抜けるような空の下で描かれるそれが、まさしくタイトル、そして表紙のイラスト通りに、鮮烈な青の印象を残す作品でした。

【小説感想】ハル遠カラジ 4 / 遍柳一

 

ハル遠カラジ 4 (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ 4 (ガガガ文庫)

 

 野生に育った戦災孤児と彼女を育てた軍事用ロボット、その母子の物語の最終巻。実直に、誠実に向き合い続け、一つ一つ積み重ねるようにしてたどり着いた結末が素晴らしかったです。本当にここまで読んできて良かったと思うし、読めて良かったと思う物語でした。

 

ライドーに連れ去られたハルの手がかりを探して、テスタたちはウラジオストクの地下に広がる生き残った人々の街へたどり着きます。そこで出会う人々との交流や、明らかになる白髪たちの正体にバベルの目的。そして地上に現れた白髪たちの中にハルの姿があって。

滅びゆく世界の中での暮らし、AIたちがイノセンスと呼ばれる白髪を生み出す理由、そして攫われたハルの行方、地球の人々に残された希望。400ページ超えの最終巻では様々な要素が語られていきますが、やっぱりこれは母と娘の物語であったのだと思います。テスタというロボットと、ハルという野生児。彼女の人ならざるものとして育った過去に、彼女を人として育て言葉を始めとする知識を与えたこれまでに、イノセンスとされた彼女に再開した今に、AIMDを患った軍事用ロボットであるテスタはどう向き合うのか。

ひたすら生真面目なテスタの一人称で語られる物語は、ひとつひとつそこに実直に相対し続けた軌跡です。人ではないからこそ人間が生きるということに向き合い続け、親子ではなかったからこそハルを育てるということに向き合い続けた。そしてたどり着いた答え。母と娘であること。母は娘を想い選択をして、娘もまた選択をする。そうしていつか巣立っていく娘が、また次の世代を育んでいく。過ちも欺瞞も全ての矛盾も抱えて向き合い続けながら、そうして自分の意思で進んでいくことを、人間が生きることだと素朴に言えるだけの説得力は、人から外れた存在だった2人が歩んだ道の果てだからこそあったように思います。

あとはイリナの身につけた強さに感じる尊さだったり、アニラの戻ってきた時の嬉しさだったり、テスタとハルは本当に共に歩む人に恵まれたのだなと感じる物語でもありました。そして終章、語り過ぎることはなく、過ぎ去っていく時間の中で、彼女が彼女を育てたことがもたらした未来をしっかりと見せる、とても良いエピローグでした。だって、その名前は泣いちゃうって。

【マンガ感想】鬼滅の刃 1-23 / 吾峠呼世晴

 

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

鬼滅の刃 23 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 流行りものには乗っておこうと映画を見たタイミングで既刊を一気読みして、最高のタイミングで最終巻を読めた鬼滅の刃。流行りものにはそれだけの理由があるんだなという面白さでとても良かったです。それにしたってこの跳ね方は様々な要因が重なった結果なのだろうと思いますが。

最初から最後まで鬼との闘いを描き続けた物語で、常に劣勢を強いられる中で死者を出すことも厭わない容赦ないバトル、呼吸や柱といった少年漫画らしい設定、そしてバトルの中で回想を折り込みながら掘り下げられていくキャラクターたちの魅力が揃ってこの作品の魅力になっていますが、その中を貫いていたのは想いを繋いでいくことだったのかなと思います。

鬼に家族を襲われ、唯一生き残った禰豆子も鬼にされた炭治郎が歩む厳しい道程の中で、彼は願いを同じくする多くの人に出会い、たくさんの想いを受け取っています。それは修行の中で出会った錆兎に真菰から始まり、鬼殺隊として散っていった柱たちまでの全て。読んでいる途中はあまりにも炭治郎に背負わせることに、長男だからって折れないとは限らないぞと思ったりもしたのですが、最終回まで読んで多分そういうことじゃないんだなと。

唯一至上の生命を目指した無惨に対して、鬼殺隊は人の身でありながら想いを繋いでいくことで対抗した。命を賭してそれぞれにできる最大で鬼と闘い、多くは命を落とし、それでも想いは受け継がれていく。それぞれの物語を懸命に生きて、繋いでいった先に悲願は成就し、そしてまた未来へと繋がっていった。そういう大きな流れが、心を燃やせという言葉に象徴される強い想いが、人が生きることだと描かれた物語だったのだろうと思います。だからこそ、最終回は未来の世に、彼らの繋いだものを描いたのだと思いました。

キャラクターは鬼も含めてみんな魅力的で、誰を主人公にしてもそれで一作できそうだなと思ったのですが、中でも好きだったのは童磨とのしのぶ、カナヲ、伊之助の戦い。それぞれの想い、背負っているものが弾けるこの作品らしさと、キャラクターの持つ個性の組み合わせが、凄惨さの中に美しさを感じさせる闘いでした。

その胡蝶しのぶというキャラクターは、本来鬼と闘うような体力は持たず(=首を切れる膂力がない)、だからこそ毒を使って闘う蟲柱となった人です。両親を、そして最愛の姉を鬼に殺された怒りを秘め続けて、本当だったら進まないで良かったはずの闘いに身を投じる。それは他の柱たちとは少し趣が違っているように見えて、特に甘露寺蜜璃との対比が面白いなと思いました。持って生まれた性質から普通に生きることを否定されて、鬼殺隊にこそ自分が普通でいられる場所を見つけた少女と、本来ならば居るべきではないところに執念で居場所を作った少女。この二人の絡みはもう少し見てみたかったなと思いました。いやなんか表面上はにこやかに会話をしている図にしかならないような気もしますが。