【小説感想】アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾

 

4年半ぶりの新刊はそれはもう大変結構なお手前で、首を長くして待ったかいがあるというものでした。流石の面白さ。

 

帯に「冒険・バトル・伝奇全部入り闇鍋本格ミステリ」と謳われているのがまさにその通りな、あれからこれまで美味しい要素は全部投げ込みましたの500ページ。それでいてごちゃごちゃしているのかと言えばそんなことはなく、ヤバい怪物とヤバい人間たちの異能バトルと、生首の探偵による端正な本格ミステリが完璧に両立しているのが凄いところ。少女ガンマンにオネエ言葉の鎖使いの《ロイズ》、吸血鬼カーミラに人造人間ヴィクターの魔術師クロウリーの《夜宴(バンケット)》、そして“鳥籠使い”一行というあまりに濃すぎる3勢力が人狼伝説の残る村で大激突という話と、閉鎖的な人間の村とこれまた閉鎖的な人狼の里で起きている怪異がらみの連続殺人事件の謎解きという、どちらもハイカロリーな話が見事に一つの物語の中で嚙み合っています。あらゆる要素が濃いので、それぞれが食い合ったり物語上の都合が出たりしそうなものですが、話の流れは至って自然で、しかも最高に面白い。だからこそ、闇鍋だけど一つの料理として美味しく仕上がっているのが素晴らしかったです。

ミステリ的には、そんな気がしていたという部分とそれは予想外だったという部分が、あんなに何でもありな大騒ぎをやった後に極めてロジカルに解き明かされていくのが良かったところ。小説だからこその仕掛けと、ばら撒かれていたヒントがパズルのようにハマっていく気持ちよさ、そして最後の一捻り。いやもう言うことないでしょうという感じです。

また、読んでいる最中はいっそ気持ち良いくらいに掌の上で転がされていました。特に、後半にかけていやいくらなんでも可哀想と思っていたところから、当然の報いだやっちまえと思うようになって、最後にそうだったのかとなるところは、読んでいる方の感情もまさしく踊らされたという感じ。それを楽しいと思えるのも、これだけ異能が続出する物語の中でも、提示された情報の中から、しかも人狼絡みだからこその事件として鮮やかに背景が紐解かれたからなのだと思います。

あとは、〈終着個体〉(キンズフューラー)とか〈五冷血〉とか〈酔月〉とか、胡散臭くもワクワクするような、ケレン味の強い概念や技が続出するのが、やっぱり楽しいです。キャラクターも一癖も二癖もあるやつらばかりで、敵味方の間の奇妙な共闘関係とか、不思議な縁が結ばれるところも良き。総じてそうそうそういうの好きだよ、分ってるなあという感じ。そんな中でもキャラとしてはやっぱり彼女の印象がとても強かったところ。静句との関係もあり、最後に次巻への展開も用意されて、これはもう早く次の感を出してくれなきゃ困ると思う次第です。

【ライブ感想】大橋彩香ワンマンライブ2021 ~Our WINGS~

 

「WINGS」 (初回限定盤)

「WINGS」 (初回限定盤)

  • アーティスト:大橋彩香
  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: CD
 

 久しぶりの大橋彩香ソロのフルライブでしたが、楽しかった! という気持ちになる良いライブでした。推しが輝いている姿は健康に良い。

 

会場も幕張メッセのイベントホールと大きくなって、ステージングもすっかり堂に入ったというか、堂々とパフォーマンスをしている姿が印象的でした。ソロとしてはライブ数が多いわけではないですが、フェス出演やコンテンツライブで大きな舞台を数多く踏んでいるのが活きているのかなと。

特に序盤と終盤の明るく元気でかわいい曲のゾーンは、これぞ大橋彩香という型があるというか、完全にパフォーマンスとして出来上がっている感じがあります。すっかり安定したプロのステージという感じで、素敵だったしとても楽しかったです。「ワガママMIRROR HEART」はやっぱりキラーチューン。

逆に後半頭からは本人のやりたいことに挑戦をしていくゾーンという感じ。ドラムソロ→レーザーを使ったダンス→特効もりもりでロック曲4連発は好きを詰め込みまくった感じで、完成されたパフォーマンスという訳ではないのですが、本人らしさが色濃く出ているのがファンとしては非常に良かったです。前回まではEDMで踊りたかったけど、今回はアルバムにあったロックな曲たちをバンドでやりたかったんだろうなあという。正直声質的にはあんまり合わないかなと思っていたところもあるのですが、いやいやこれはこれで行けるのではと思うパフォーマンスで、可能性が広がったなと思います。踊りながらの「Winding Road」の激しさも良かったし、「HOWL」はボカロ系ロックな曲と歌声が音源で聞いた時よりすごくマッチしていました。

そして個人的に一番刺さったのは少し切なさのある曲たち。特に後半に披露された「NOT YET」がとても良かったです。前半の「キミがいないクリスマスなんて」もなのですが、こういう綺麗なメロディでちょっと影のある曲が凄く良く合っているように感じて、「Sentimen-Truth」「バカだなぁ」というエモい曲にそれぞれ繋がるセットリストも含めてとても良かったです。これからも本人の流行に合わせて色々なジャンルの曲にチャレンジしていくのだと思いますが、この路線の曲ももっと増えていくとうれしいなと思います。

 

そんな感じで、今現在の大橋彩香をバランスよく魅せる素敵なライブでした。そして何より、この状況下でライブを開催してくれて、推しが輝く姿を見て元気をもらえたというのが、本当に有難いことだったと思います。いつになるかはわからないですが、次のライブで今度は何に挑戦する姿を見せてくれるのか、楽しみに待っていたいです。

【小説感想】Y田A子に世界は難しい / 大澤めぐみ

 

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

 

騒がしくて面白くてちょっと泣けて、読み終えて清々しい気持ちになれる青春AI家族小説。滅茶苦茶良かったです。とても好み。

 

突抜博士という突き抜けすぎた人工知能の元権威が作ったものの理解されず宙ぶらりんになっていた自我を持つAIを、ロリコンの満天橋教授がお嫁さんにするために作った少女型のロボットに入れたのだけどそのために研究費を使い込んだことがばれてクビになり、処分されそうになったところを研究員の秋彦さんが流石に可哀想だと家に連れ帰ったことで和井田家の居候になって女子高生になった和井田瑛子(ロボット)が突き進む賑やかな日常を一人称饒舌体で描く物語。

そんな瑛子が友達を作ろうとベンチに座っていた風香(友達がいない)に距離感のおかしなアプローチを見せる冒頭から、いったん落ち着こうと言いたくなる情報過多な感じですが、そこから一切減速することなくその勢いのままとにかくアッパーでテンション高めに駆け抜けます。とはいえロボットなので変な冷静さがあったり、周りの人たちも普通だったりちょっと普通じゃなかったり、でも描かれるのはぶっ飛んでいるけどどこにでもある日常で、読んでいると瑛子を通して触れる騒がしくも面白い世界に楽しい気持ちになってくるのが良い感じ。

  

女子高生になった瑛子は和井田家に居候しながら、友達を作って、バイトを始めて、部活を始めます。その過程で、ロボットである彼女の視点から、友達だったり、家族だったり、アイデンティティだったり、将来のことだったり、色々なことを考えます。この一つ一つのテーマは彼女のスピード感ある日常の中でそこまで深く掘り下げられはしなくて、けれど確かに彼女の自我の中に確かに何かを残して、彼女を形作っていきます。

ボボボーボ・ボーボボを買うためにバイトをするのも、躯体に負荷をかけるだけのバレエを面白いと思うのも、攫われた友達のために行動するのも、すべて彼女の日常で生まれたこと。そして、彼女がロボットであり、人間とは違って一度壊れたら自然に直りはしないことも、年下(?)の子が成長したり友人が変わっていく中で自分はずっと同じ姿なことも、それを彼女がどう考えたのかも。それは、ああこんなに騒がしく楽しい毎日なのになんて切ないと、そう感じさせられるもの。

そしてその切なさの反転するエピローグ。人間のことを知って、人間のことを考えて、人間ではない自分を意識して、同じ時間を生きることができないと悟った彼女にもたらされる単純な答え。

 

瑛子はロボットで、ロボットだから外側からの視点で風香のことや和井田家のことを見ていて、友人や家族というものを知った。知ったからこそ、彼ら彼女らは自分を当たり前に受け入れてくれるけれど、自分は同じ時間を生きられないと悲しんだ。

でも、少女型のロボットであることが、最高速で突き進んだ騒がしい日常が、そうやってできた友人や家族が、バイト先のおっさんみたいなことを言うペッパーくんだって、全ての要素がばっちりとハマって、ここには女子高生 和井田瑛子の物語が浮かび上がります。ロボットだからだとかそんなことは関係なく、彼女が観測して考察した世界の中に彼女自身は確かにいる。彼女は未知が広がる世界を目一杯に生きてきたし、例え叶うかわからなくても、未来を願ったっていいんだと教えてくれる親友もできた。だから、一緒に歩んでいくことができる。

そうして物語は、周りと違う自分はどうやって世界の中で生きていくのか、何者になれるのだろうかという、ものすごく普遍的なテーマに集約されます。人と出会い、世界を広げて、青春を知ったロボットが、気が付けば彼女自身最高に青春をしていた。そこがとても良かったし、すごく好きだなと思う物語でした。

【ゲーム感想】ブレイブリーデフォルトⅡ(ネタばれあり)

 

ブレイブリーデフォルトII -Switch

ブレイブリーデフォルトII -Switch

  • 発売日: 2021/02/26
  • メディア: Video Game
 

 フィールドマップがあって、街やダンジョンがあって、デフォルメキャラの動きと会話がメインのイベントがあって、コマンド入力の戦闘があってという、昔ながらのRPGを今基準にストレスなく仕立て上げたゲーム。というかこれ最新のFF5です、まさしく。

そしてやっぱり落ち着くというか、アクションRPGの操作が苦手な身としてはこれだよこれという感じがあります。操作性などは今風になっていますが、それ以外は良いところも悪いところも昔のRPGをやっている感覚で、定食屋に入ったらクオリティ高めの定食が出てきたいみたいな。

そんな中で良かったのは戦闘システムとバランス。ジョブ+サブジョブのコマンドが選べて、それとは別に特殊な効果を発揮するアビリティがセット可能。戦闘はシリーズおなじみのターンの前借(ブレイブ)と貯蓄(デフォルト)ができて、今回はATB方式なのでターンの回ってくる速度に装備の重さやジョブによる速度も効いてくる。その全ての組み合わせにシナジーがあって、上手くすれば爆発的な効果をもたらしたり、敵ボスをカウンター系能力含めて完封できたりします。更にパーティーメンバーは4人なので、誰をどういう役割とするのか、そしてそのための育成の方針まで、かなり戦略の幅があり、しかもやたら強い能力は点在しているのでいろいろな勝ち筋があるというのが面白かったです。

凄いなと思ったのは、技やアビリティにぶっ壊れかと思うような強力なものが様々なジョブで数多くあるのですが、かといって戦闘バランスが大味な訳ではないところ。むしろその強力な能力をどう組み合わせて生かすかをしっかり考えないと全然ボスに勝てないというバランスで、このあたりが難易度の高さに繋がってはいるのですが、このゲームの面白さの肝だと思いました。試練の回廊で、明らかに適正レベルが足りずに何度も全滅した後、そんなのあり? みたいな戦略を考えて上手くいったときは思わず叫びましたし、RPGの醍醐味だよなあと。

最終的に私は最終的に超火力で殴り合うみたいな境地に至ったので、隠しボス戦などは全滅直前当たり前からのミレイズで九死に一生、上手いタイミングで神速瞬撃が入ればオーバー8万ダメージみたいな派手な戦闘をすることになり、テンションの上がる乱打戦で楽しかったです。防戦一方なところでホワイトウインドで回復し始めたのは絶望しそうになりましたが。ただ、最後のジョブがBPをコントロールする技ばかりだったので、多分敵のボスにフルブレイブさせない戦略が王道な気はします。

 

ストーリーは、ムービーなどを使った長いイベントシーンはほとんど無くて、シンプルな会話のみで進んでいく、やっぱりこれも昔ながらのRPG仕様。キャラクターの行動に対する突っ込みどころや、ダンジョンのために突然用意されるダンジョン、それどころじゃないだろ的なお使いクエストなども昔ながらのRPGですが、このゲームだとまあそれも味かなと思わせるのがちょっとずるい。グラフィックを変にリアルに寄せなかったのも、ゲーム性に対して合っていたと思います。

話的には4人の光の戦士が、クリスタルの封印が解けたことで甦る敵を倒すというド王道。ですが、特に序盤の4ヶ国を回るあたりの話は非常に丁寧に描かれていて良かったです。クリスタルを求めて旅する主人公たちが関わることで解決する問題もあるのですが、苦みの残るような話が多かったのも印象的。最低限のイベントと言葉で滅茶苦茶に盛り上げる訳ではないのですが、描かれない間を想像させるのが上手いなというのと、サブクエストでフォローすることで痒い所に手が届く掘り下げがあるのが良かったです。中でもサヴァロンの話とライムダールの話が好き。特にサヴァロンはバーナードとニハルの関係がとても良かったし、ニハル幸せになれよって思います。ボス的にはフォリィの擁護の余地も無いが深い思惑もないサイコパスっぷりが純粋にヤバい悪として突き抜けていて好きです。

ただ、終盤にかけての展開はちょっと雑だったのではというか、ペース配分間違えた? みたいな感じがありました。ホログラード、ミューザ辺りから少し駆け足かなとは思うものの、アダマスのことはロンズデイルのイベントがあるし、在りし日のミューザでのグローリアが見たかった気持ちはありつつも、スローンと逃げた時の回想が効いていて十分な感じ。ただ、仕掛けと展開の情報量が多すぎるのはあるのですが、その先の妖精がらみはもう少し掘り下げてもよかったんじゃないかなあと。最低限必要なことは描かれて、ストーリーはしっかりしているのですが、でも序盤のあの丁寧さを鑑みると、もうちょっとちゃんと描けたでしょっていう贅沢な想いがあります。

エドゥナや妖精王、ヤミノヒトミの過去と妖精と人間の関係はもっと描いてほしかったなあとか、イメルダ様との信頼関係イベントそれだけ? とか記憶の泉でずっと待ってるの? とか、こう、もうちょっとあったでしょみたいな。情報は足りているし、バッド気味のエンドを繰り返してそこから何度でも立ち上がるとか、先代の戦士たちから受け継がれるものだとか、そういうテーマもわかるし、魔導書の仕掛けもなるほどと思ったし、セスの正体も納得がいくものだっただけに、もっと丁寧にできたでしょという気持ちがあります。

とはいっても全体的には十分楽しませてもらったし、SFCで子供時代を過ごした人間としては、これこれこういうゲームでいいんだよみたいな気持ちになる良作だったと思います。あとは、やっぱりファンとしてはRevoの音楽が最高なんですよね……。

【ライブ感想】上田麗奈1st LIVE Imagination Colors

 

Empathy

Empathy

  • アーティスト:上田麗奈
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: CD
 

 配信で視聴。

とんでもないものを見た……と思って、しばらく時間をあけてアーカイブを見て、やっぱり凄いものを見たと思いました。本当に凄かった。

 

上田麗奈なら、音楽というよりもきっとお芝居をするようなテイストになるのだろうというイメージはあって、まさにそういうライブではあったし、そういうライブをするなら凄いものを見せてくれるだろうという期待はありました。ですが、まさかここまでのものとは思わなかった。

2曲めから本編ほぼ最後までの十数曲をMCなしで表現されるそれは、まさしく「舞台 上田麗奈」という感じ。立ち振舞い、仕草、表情、そして声による表現。いわゆる歌が上手いというのとは違う、剥き身の迫力、感情表現。というか、感情よりもっとイディアルなものを、上田麗奈という人の向こう側に感じているような印象すらありました。感受性の次元が違うというか、きっと生きている世界が違う。それをステージを通じて垣間見させられているような感じ。そしてそれを「Imagination Colors」と呼ぶか……。世が世ならこの人は魔女か巫女になっているのだと思います、本当に。

見ていて感じたのは、惹きつけられるというよりも、深いところに引きずり込まれるような感覚。人によってチャンネルが合う合わないはあると思うのですが、ばっちり合ってしまうと動けなくなるような引力があります。ライブや舞台を見ていると思わず目が離せなくなる瞬間があるのですが、それが最初から最後まで続くような緊張感。現地で見たかったという気持ちはある(チケット抽選外れた)のですが、私たぶん現地で見たら終わったあと椅子から立ち上がれなくなってたように思います。

 

1stライブであることも、本人は緊張して嫌だ嫌だと言っていたことも、チーム上田麗奈で積み重ねてきたものであることも分かるのですが、それでもその姿には、「上田麗奈の表現」さえあればそれだけでいつでもどこでも成立すると感じさせられる、絶対的な存在感を感じるステージでした。

【映画感想】シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

 

One Last Kiss

One Last Kiss

  • 発売日: 2021/03/09
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 エヴァンゲリオンを終わらせる映画。清算する映画。社会現象にまで広がった25年に、けじめを付ける最終作。

私は大学時代にTVシリーズと旧劇場版を一気観したところからなのでリアルタイムで見ていた訳ではないのですが、それでもエヴァが終わったということへの感慨がありました。

 

以下ネタバレありです。

 

 

 

 

 

これまでの全てを回収していくのですが、難解な用語など分からないことは分からないままどんどんエスカレートしていくところはエヴァだなあと。でも必要なことはちゃんと回収する。TVも映画もこれまでの全部を踏まえて、ちょっと説明過多になったり説教っぽくなったりしても全部ちゃんと答えの方向に導いていく。まさかこんなに真正面から落とし前をつけるとは思っていなかったです。そこはもう本当にすごい。逃げちゃダメだを地で行ったような感じ。いやなんかもう、めちゃくちゃにえらいと思いました。

面白かったかと言われるとなんとも言えないところはあるのですが、そうやってきっちり向き合ったからこそ、ああ終わったなと、観終えて妙に清々しくなる映画です。

ただ、これはエヴァを終わらせるものだけど、観客のエヴァを終わらせてくれるものではないと感じます。どちらかというと、お互い25年考えてきたことの庵野総監督との答え合わせ。これまで色々あったのだろうけれど、人間とこの社会と未来に対して監督がとても前向きになったように感じるところがあって、それを含め、俺はこう生きてきたよ、君たちはどう生きてきた? みたいな。

なので、お前が悩み始めたからみんな悩んでたのに一人解決してスッキリみたいな顔してるんじゃねーよという気持ちがなくもないです。なくもないのですが、猶予期間は25年あった訳だしなあ……。

 

お話としては、ものすごく普遍的で、真っ当な物語に落ち着いたという感じはします。少年が父親を超える物語、母親から巣立つ物語。子どもたちはちゃんと大人になって、それぞれの人生を生きていく。

終盤にゲンドウが突然の長尺自分語りを始めたのは面食らったというか、笑っちゃいそうにもなったのですが、今までシンジから見て恐怖と超越の象徴みたいだった父親が、結局ただの人間であったということが見えるのは、父親超えのテーマとしてしっくり来るものではありました。それにしてもあのシーンは圧が強くて、監督の自分語りかと。

序盤に出てきた第3村は、作中でも一番フィクショナルな人類の未来への希望が託された場所だと思います。やっぱりどうしても、アフター3.11とかアフターコロナみたいなことを考えちゃうシーン。その被災後に不安定な環境下でもしぶとく生きる人たちの中に、人ではないレイ(そっくりさん)を放り込んで、人が生きることの象徴としてやらせることが農業なのも、生命の未来の象徴として描かれるのが赤ん坊なのも、素朴でベタすぎるくらいだと思いますが、最後まで見るとめちゃくちゃベタをやりきっている話ので納得感はあります。

それはそうと、レイ(そっくりさん)が村の人々と触れ合うことで自我を育みながら幸せに暮らす話で良かったじゃんみたいな気持ちが、どうしても捨てられない。つらい。レイの可能性の一つとして結末で描く未来に繋がっているのは分かるけどつらい。

アスカは今回も不憫で難儀な子で、大人にもなれないし、子供でもいられないまま、ずっと一人で頑張って頑張って頑張って、死装束着て特攻して最後は敵に利用されて、でも彼女にケンスケがいて本当に良かった。子供のままに大人にもなったようなケンスケが側にいるなら、アスカはこれからきっと大丈夫だと思えました。

そんなアスカ含めて終盤の子どもたちカウンセリング&自立RTAみたいになっていたところは変な面白さがありましたが、でも絶対に誰もエヴァに置いてはいかない、全部責任は取るし全部決着をつけるという作り手の強い気持ちを感じます。大人たちの抱えてきたものへの決着の付け方も含めて、そこは執念だと思いました。

そうなると確かにシンジがレイやアスカと一緒になるのは違うのですが、マリと一緒のエンディングはちょっとびっくりしました。というかこの人、アスカが14年先に生きちゃったからもう好きではいられないって言っている横で、14年どころか親世代なんですけど。同世代の仕事仲間の息子にちょっかいをかけてるのちょっと事案では。でも、最後の駅のシーンの少し大人になった姿で好きって思っちゃったので負けです。

そしてシンジくんはすげーよと。Qであんな事があったのに、それで立ち直れるのも、そこから一足飛びに成長したのも、覚悟が決まったらとんでもない突破力を持っているのも全然普通じゃない。ウジウジしているところが目立つけれど、やっぱりヒーローでまさしく主人公なのだなと思いました。特別だからこそ、特別じゃないサクラやミドリと対峙するシーンが際立つのだなとも思います。

 

全体的に言ってることは分かるが釈然としないみたいなところもあるのですが、まあ私はエヴァに人生乱された人ではない(エヴァの影響を受けた作品には散々乱されてきたけど)ので深くは考えないことにして、最後に駅から駆け出した二人を見て、ようやくだな、清々したな、さて今日からいっちょ頑張って生きてくか! という気持ちでいようと思います。終わった! 良かった!

【マンガ感想】まちカドまぞく 6 / 伊藤いづも

 

 5巻まで伏線回収と当初からは予想もつかなかった多くの事実と展開で凄かったのですが、よく考えたらこの街で過去に起きたことは何も明らかになっていなかったなと思い知らされた最新巻。相変わらずきらら4コマらしからぬ設定の詰まり具合と情報の出し方がすごい。

いやしかし……これは思った以上に壮絶な過去が、しかもスイカの話だけでうわあとなっていたところに、桃自身の記憶からも封印された過去の二段構えは唸るしか無い。ロシア語? の台詞の意味はわからなかったのですが、何らかの施設的なところで名前に数字が出てくるってそういうことですよね……。

桜やヨシュアたち大人世代の優しさと、起こってしまった残酷な事実を踏まえて、脅かされゆく多魔という街のため、ぽんこつ魔族は決意を新たにする。それでも彼女の周りには沢山の頼れる仲間がいるのだから、背負い込みすぎないで欲しいと思う一冊でした。

あと、作品のルールから外れた存在が、いつの間にかおかしいことが当然になって怪しまれなくなったところに実は重大な事実がみたいなやつ、散々これまで騙されてきたのにまたやられたなって。おぐらしおんでグシオン、そんなネタかよ! 本当に伏線の仕込み方に油断ならない作品だと思いました。そうなると、この巻のあれもこれも、設定上の仕込みに思えてくる……。