【小説感想】ストライクフォール 4 / 長谷敏司

 

久しぶりの新刊ですが、やっぱりこのシリーズ凄いと思わせてくれる一冊でした。

 

ストライクフォールという、宇宙空間でストライクシェルと呼ばれるロボットに乗り15対15で戦闘を行う競技は、当然この世のどこにもないフィクションです。だからそのスポーツの常識が変わっていくシーズンだと言われても、そもそもの歴史も何も知らないしとなりそうなところですが、その激動の時代を強烈な臨場感で体感できるのが凄いところ。前の巻でも思ったのですが、ずっと昔からこのスポーツを見ていたような気分になって、作中の人たちと一緒においおいマジかよ! という気持ちにさせてくれるのが大きな魅力だと思います。そしてそれは、一つ一つの動きを綿密に、おそらくハッタリも利かせて描かれる宇宙空間でのチーム戦闘と、魅力的なキャラクターたちの存在があってこそなのだと感じました。

 

そしてこの作品、鷹森雄星という熱血スポーツバカがストライクフォールに挑むスポ根と、全宇宙の戦争に繋がっていく技術と政治の話が直結して同レイヤーに存在するものとして描かれていくのがヤバいところ。

スポ根としては、雄星という慣性制御をもたらしヒーローになった選手が、周りのチームの散兵戦術への適応と一軍の壁にぶち当たってもがくお話。抜群のフィジカル(=チルウエポン耐性)を持ちながら、彼が散兵戦術の鍵を握るリンカーという役割をこなせいことでチームの順位は落ちてきて、そんな中で人工的に耐性を上げたルナ・チャイルドのファラデーがチームにやってきたことで、居場所を失っていきます。

才能が足りないともがく雄星は、研究所の仲間に居場所を見つけるため死に物狂いで闘うファラデーからすればどこまでも恵まれたように見えるし、雄星はスポーツとしてのストライクフォールに向きあわない彼女とは相いれない。その個人の関係と、チームスポーツとしてのストライクフォール、そして崖っぷちの試合で監督陣の進退をかけて導入される新戦術。チームとして闘うということがシルバーハンズにどんな力を与えるのか、絶対的エースを有するガーディアンズ相手の抜群に熱い試合を楽しめました。あと相変わらず感性に任せたアグレッシブさと非情な損得計算が同居する戦闘民族なアデーレが最高。私がシルバーファンズのファンだったら間違いなく再推し選手です。

 

そしてそれと同時に刻一刻と開戦に向けて進んでいく宇宙情勢。ストライクフォールは宇宙空間における戦闘を競技化したもので、実際の戦闘における戦術がそのまま有効であること。最先端の技術のぶつかり合いで、しかもコントラクターの存在がそこを新技術の生まれる場所にまでしてしまったということ。

イノベーションを起こせる技術と戦術が生まれてくる、各方面の軍がチームを持っている競技なんてものは経済からも政治からも軍事からも切り離しようがなく、ここにはスポーツと政治は別という原則は通用しません。爆発的な技術進歩は世界の在り方を変え、それをどんな戦略で活かせるか、またどこの軍が活かせるかが世界に明示され、コントラクターと鷹森雄星という特異点は膨大過ぎる価値故に扱いが難しくなっていく。これはもう、彼がストライクフォールをやればやるほど、世界は混迷をきたし、戦火は近づいてくるとも言える状況です。

 

ただそこで、「スポーツは戦争に勝てるのか?」という理想論にすら届かなそうなテーマを、正面切って叩きつけるのがこの話。それは、様々な勢力が裏で動く中で地球圏の非軍チームであるシルバーハンズが勝つことの意味に繋がり、ガーディアンズ戦がまさに証明の場となります。環の手繰り寄せたタイトな論理と、しがらみの全てを吹き飛ばす雄星の試合が、どう考えてもスポーツでは収まりそうにないストライクフォールという場で、スポーツという理念で全ての現実に立ち向かうことを成立させているのが、本当にヤバいなこのシリーズと思いました。正直これ、かなり狂気的な話だと思います。

 

圧倒的熱量の試合の後に残るのは、更なるイノベーションの気配と、シルバーハンズが生み出した戦術が絶対的エースの時代を終わらせること、そしてスポーツだからこその無謀さが戦争の引き金となる可能性の示唆。激動を見せそうな宇宙の中で、鷹森雄星と白咲環のスポーツを掲げた闘いがどこに行きつくのか、続きも楽しみです。

【小説感想】86 ―エイティシックス― Ep.10 フラグメンタル・ネオテニー / 安里アサト

 

 シンの86区時代の過去話を中心にした短編集。

死神と呼ばれていた過去を合わせて考えれば当然周りはみんな死んでいく訳で、出てくるキャラ出てくるキャラ86区の戦場に散っていくという。ただ、その中でも彼ら彼女らがシンという存在にどう触れていたか、それが今のシンが形成されるにあたってどういうものを残していったのかが分かる物語でした。ここまで追いかけてきたからこそ、だからシンはあの時ああいうところにこだわって、そういう人間であったのだなと答え合わせになるような感覚が面白かったです。これはシリーズが長く続いてきたからこそのものだなと感じます。

そしてこの短編で何がズルいってファイドですよ。ここまで9巻、なんだか妙に賢いスカベンジャーだとはずっと思っていたけれど、まさかそんな背景を背負っていただなんて思わないじゃないですか。ここでそれを出してくるかと唸るばかりな、満を持しての短編『ファイド』。いやもう本当にそういうの泣くから!! 新展開に入りそうな次の巻から、ファイドを見る目が変わりそうな破壊力のあるお話でした。

【マンガ感想】進撃の巨人 34 / 諌山創

 

 完結。マーレ編以降はよく分からないけどえらいこっちゃみたいな感じで読んでいたのですが、なるほどこうして終わるのかと。全ての出来事が繋がってきたことへの納得感と、嵐の過ぎた後のような寂寥感と、それでも続いていくこれからを感じる最終巻でした。まるで、大きな歴史を見てきたようだなと思います。

この作品、誰が正しくて間違っているかは相対的で、誰しも成功もすれば失敗もして、完璧な人間はおらず、行動の結果で全てが良くなるなんてこともないというのが、貫かれていたように思います。エレンという主人公に地鳴らしで世界を踏み潰す行動に理由があったと分かっても、だからエレンは正しかったとはならず、もし結末が見えてなくても俺は世界を平らにしたと言うし、ミカサのことを聞かれれば情けない姿も見せる。他の人たちも、誰もが格好よかったり愚かだったり、殺しあったり想いあったりする。もちろん、特にエレンとミカサとアルミンはこの物語で特別な立ち位置を占める訳ですが、それでも誰かのことだけを特別扱いはしない、人間のことを高く見積もってはいないし、絶望してもいないバランス感覚を感じました。この物語は、そうやって人間臭い人間たちが生きて、願って、行動して、そうして積み重ねてきたことの結果だから、読み終えて、ああこれは歴史だったと感じるのだと思います。

それから最後まで巨人から自由になることがテーマだったのだなとも。1巻で理不尽な暴力として現れた巨人の居る世界から、巨人を駆逐して壁を越えて自由を求めた物語は、最終巻で始祖ユミルを2000年縛り続けた愛を断ち切って、巨人という呪縛からユミルの民を解放する物語へ。意味合いは全く変わったけれど、始まりと終わりのテーマが同じになるのが良かったです。

終盤は連載で追いかけていたのですが、単行本の追加ページが非常に良かったです。始祖ユミルとミカサのシーンはこれがどういう話だったのかがはっきりするし、ラストはもうミカサ……ってなる。それから進撃のスクールカースト。争いは決して無くならないが、見てきたこと語り継がなければならないという、最後のアルミンの言葉に、与太話だった現代編が呼応するというのは、ちょっと思ってもみないところからきたなと思いました。まさにこの物語が歴史であったからこそのものであったなと感じます。

【映画感想】劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

 

 TVシリーズも関係性と概念を濃縮2倍でそのまま投げつけてくるような作品だったスタァライトですが、劇場版は凄まじかった。TVの時はキャラクターコンテンツということである程度手心があったのだろうと思うくらいに、アクセルを踏みぬいた映像と演出で圧倒され続ける2時間。今回は濃縮5倍還元なしでお届けという感じでした。

 

初回は卒業の物語であるという前情報とロンド・ロンド・ロンドで出てきた舞台少女の死というフレーズを念頭に置きながら、さてどうなるのだろうと思いながら見始めたのです。ところが、冒頭から一気の展開にそれどころではなくなり、まったく速度を緩めない展開に何かやべーものを見てしまったという感想しか出てこなくなるばかり。ただ、そういうものが来ると身構えたうえで2回目を見ると、この映画、滅茶苦茶懇切丁寧に説明してるじゃないかと。

テーマは卒業、別離、覚悟、けじめ、そして未来への物語。モチーフになる電車は次の駅へと止まらず、舞台少女もまた次の舞台へと止まることはできない。オーディションは既に終わっていて、私たちはもう舞台の上。再生産され続ける常在舞台上、そこで過去を引きずれば、それはすなわち舞台少女の死。上掛けを落とされても終わらない舞台を、だから進むしかないと。普通の女の子の幸せを焼き尽くしてでも、舞台の上で感情を生き様を捧げて、その瞬間だけのきらめきを放ち続けることが、彼女たちが進む道には求められているから。トップクラスの歌劇学校の更にトップエリートである彼女たちは、舞台の上に届かなかったたくさんの舞台少女の死体の先に、そうやって進み続けるのだと感じる物語でした。

そしてこの映画、ストーリー的には本当にそれだけです。描かれるのは、このテーマを冠されたそれぞれの舞台。彼女たちの関係性であり、生き様であり、感情であり、その全てが舞台という形を取るのが、映像音楽演出全てを込めた会心のクライマックスのような後半のレヴュー×5連発。観客席すら巻き込みながら即興劇のように瞬間を燃やし尽くすあり方は、「“劇場”でしか味わえない{歌劇]体験」と謳われるのも納得です。

 

それから舞台の観察者の象徴たるキリンの扱いが凄く良かったです。舞台をきらめかせるための野菜燃料になって燃え尽きていく姿、残ったトマト。全てを舞台に晒した彼女たちの一方的な観察者ではなく、ある種共犯的な関係として描かれたのは、私も一人のキリンとして、本当に有り難い限りだと思いました。それだけの覚悟をもって推してるんだよ、見たこのない舞台が見たいんだよ、なら燃え尽きて糧とさせてもらえるなら、それは望外の喜びでしょうと。

 

 

さて、レヴューですが、いやもう凄かったんですが、それぞれに感想を。

ふたかおは、賭博場、クラブ、デコトラというビジュアルイメージに乗せて熟年夫婦の喧嘩のような二人の関係性がぶつかるレヴュー。お世話をしてお世話されての腐れ縁、未来を定めた香子と、その隣に並ぶため今度はわがままを通す双葉。理屈じゃない情のぶつかり合いと、それでも絶対に別れないだろうという信頼、預かりものとして託されたバイクを携えたエンドロールの香子が最高に良かったです。

ひかまひは、華恋の元を去ったひかりに、まひるが舞台に上がることを求めるレヴュー。露崎まひるというキャラクターの持つ、負けた人間だからこそ、怖さを知っているからこそ持てる図太さが最高に輝いていて、まひるやっぱり好きだなあと思いました。最後の口上、まひるらしさが溢れていて痺れた。

じゅんななはまあ凄かった。眩しいと思った星見純那が変わってしまったと否定して、今ここで腹を切れと迫る(足でぐいとやるシーンのフェティッシュさ)のは、再演を繰り返した大場なな的な傲慢で、けれどそこに説得力はある。それを借り物ではない自分の言葉で否定する純那。ここは自分の言葉を使うことに意味があるところで、だけど壊された自分の弓ではなく突きつけられたななの刀を武器にするの、あーってなりました。そしてお互いに背を向けて対称の構図となる別離。そんな○○知らない! も泣いちゃったも対になる演出で最高でした。この二人は冒頭の面談シーンで出した進路とエンドロールの実際に進んだ道が変わっているのも良い。

そして真矢クロがもっと凄いというかなんですかねあれは。こちらはライバルという対の関係。なんにでもなれる空っぽの器、演者としてのトップスタァ天堂真矢から、感情を引き出して見せるクロディーヌ。「あんた今一番可愛いわよ」に対する「私はいつだって可愛い!」はTV版のやりとりも踏まえて最高です。そして共に燃えながら落ちていく炎って、いやもうなんなんですかねこの二人。

そしてクライマックスはかれひか。オーディションでひかりと二人でトップスタァになるという約束を果たして、何もなくなってしまった舞台少女愛城華恋の死。シーンごとに差しはさまれてきた、ここに至るまでの華恋の過去から見えるひかりへの想い。

そこから、止まらない電車にたどり着いてしまったポジションゼロの棺を載せて、全ての思い出を燃料にして焼き尽くし、アタシ再生産される愛城華恋。向き合うのは、華恋に引っ張ってもらった過去を、華恋のファンになってしまいそうな自分を、舞台に立つという恐怖を過去にして、自罰的で自虐的な自分を振り切って、私がスタァだと名乗りを上げる神楽ひかり。そして二人の約束の象徴たる東京タワー(約束タワー)は折れ飛んでポジションゼロに突き刺さり、愛城華恋は次の舞台へと進んでいく。

いやもう、モチーフの使い方が美しすぎて、そのくせ映像と演出はバリバリに狂気じみていて、本当にやべーものを見たなと思うレヴューでした。最後だからと言って長くない(体感)のもいい。このレヴューにはこれが必要にして十分という感じで、素晴らしかったです。

【小説感想】魔法少女育成計画 breakdown 前・後 / 遠藤浅蜊

 

 亡くなった天才にして変人の魔法使いが何らかの研究を行っていた無人島。その島に魔法少女を二人まで連れてくるという奇妙な条件付きで、遺産相続の話し合いに集められた縁者たち。

このシリーズでそう来たら平穏無事に話が進む訳はなく、一人の魔法少女が殺されたことをきっかけに、魔力を吸い取る大地、錯綜する思惑と陰謀、現れた圧倒的暴力を振るう女神の姿の魔法少女と、状況は混迷し、各陣営は追い詰められていきます。

 

読者応募の魔法少女と過去に登場した魔法少女、そして新キャラたちを加えた魔法使い+魔法少女2名の各陣営が、怪しげな研究が行われていた無人島で極限まで追い詰められていくまほいくスピンオフは、Web連載作品だったということで今までのシリーズとはちょっと手触りが違う感じでした。

まほいくは初期の印象が強いので、設定とキャラクターを組み上げてから、唐突に理不尽に壊していく、そのカタストロフに魅力があるシリーズだと思っています。ただ今回は、連載作品ということで全体構成は綿密に作られている感じではなくて、毎回テンションを保ったまま駆け抜けていくという感じ。結果、やっぱり人死にの多い作品ではありますが、壊すのではなく、積み上げていく物語になっていたと思います。

まず、単純に厚い(上下で約1000ページ)ということでそれぞれのキャラクターの描写も多く、話が進んでいくうちに愛着が生まれてきます。キャラクターを描くのが明らかに上手くなっているので、もう滅茶苦茶に死ぬだろうに、ああ死んでほしくないなと思ってしまいますし、強烈な展開で引っ張っていくので、どうなっちゃうんだろう、生き延びてくれるだろうか、あんなの倒せるだろうか、誰が何を考えているのだろうかと次への興味を引っ張り続けてくれる感じ。そして混沌と暴力の嵐が吹き荒れ、魔力を奪う大地に苦しみ各陣営が傷ついていく中で、最終的にフランチェスカという敵に対して力を合わせて立ち向かう流れになるのが熱いです。

この辺りはもう少年漫画かって感じなのですが、各キャラクターの追い詰められた状況での決意も行動も格好良いし、争いごとのプロにはプロなりの、悪党には悪党なりの、魔法使いには魔法使いなりの、野良魔法少女には野良魔法少女なりの、ただの子供にだってただの子供なりの矜持を見せてくれるのがシンプルに大変良かったです。まさか邪道だと思っていたまほいくでこんな王道な話が出てくるとは思わなかったし、それがこんなに面白くなるとは思わなかったので驚きでした。皆に見せ場が用意された分、展開的にも構成的にも盛り盛りで特に後半はあまりスマートではないのですが、テンションと熱さで全てを超えていくような勢いがあります。読んでいる気分的には、鬼滅の最終決戦とかそういう方向に近い。

 

そうやって王道に来た物語の魅力の一端はキャラクターとその関係性で、相変わらず世知辛い魔法の国と魔法少女周りの流れるような描写や、魔法少女のシステム上、返信前は老若男女、人間以外も問わないという部分が生み出す多様性や関係性、それぞれの持つ特異な能力とその活かし方といったところ。

そんなキャラの中ではドリーミィ☆チェルシーが最高でした。自分の信じる魔法少女の在り方を目指してきた34歳ニート魔法少女オタク女が、母親から働けと言われて魔法少女としての仕事に応募してみたという期待値ゼロから始まり、仕事を始めればトラブルは起こすは施設は壊すわで評価マイナスに至ってからの後半ですよ。奪われ傷つけられ操られ、魔法少女ドリーミィ☆チェルシーならどうするか、その信念に従って強大な敵に戦いを挑む。何度やられても一番可愛い、一番魔法少女らしい我流の戦い方を突き詰めて立ち上がり続けるのが格好良くてヤバかったです。チェルシー株はストップ高から天井を突き抜けて、何言ってんだこいつと思っていた「ドリーミー☆チェルシーにお任せよ!」に震えることになるとは思わなかった。あと、その筋のプロであるマーガリートからチェルシーへの評価が異様に高いのがちょっと面白かったです。

他のキャラもなかなかキマっていたり、強かったり弱かったり、ズルかったり真っすぐだったり様々でしたが、名門魔法使い家の少女イオールと何の魔力も持たない少年統太の関係も良かった。いやほんと今回は王道攻めてきたなっていう。だからこそエピローグで出てきた単語においお前それはやめろふざけるなと思いましたが。それからラギ爺さん、魔法使いとしては優秀だけど嫌われている怒ってばかりの堅物クソ真面目爺、有事の際には頼りになるのが素敵。事件を受けての心境の変化の、苦みのある余韻を残す感じ、良かったです。

あとは過去生き延びた組を出してくるのも、思い入れの観点からズルいものがありました。クランテイルとかマナたちとか、どんな酷い状況からどんな想いを背負って生き延びたのか知ってるので、こんなんで死なないでくれって思ってしまう……。亀から変身した魔法少女ことテプセケメイ、謎の独自ルールに従って自由に動いているようで、7753とマナに向ける想いの強さが好きです。あと強いし。

 

そんな感じでとにかく飽きることなく先へ先へと読み進めてしまう面白さのあった上下巻。とても満足感のある読書でした。あとは明らかに話の途中で止まっている本編の続きを早く……。

【マンガ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 7、8 / バンダイナムコエンターテインメント・ 廾之

 

 

久しぶりのU149新刊は龍崎薫編、アイドル大運動会編、そして的場梨沙編の途中までを収録。連載で読んでた時も最高だなと思いましたが、まとめて読んでも最高でした。キャラクターの描き方が丁寧でスピンオフとしても良いですし、それを抜きにしてもマンガが上手い。

 

U149のいいところはたくさんあるのですが、中でもやっぱり表情が抜群なんだと思います。子供たちの中で、感情が動いたその瞬間を切り取ったような表情。単純にかわいいだとか、ただ笑っている怒っている真剣になっているだけじゃない、何かが彼女たちの中で起きたと感じさせてくれる表情の描き方がとても鮮烈で、この作品の魅力になっているのだと思います。一つの話の中で、薫の笑顔のバリエーションで魅せてくれるのは正直凄い。龍崎薫は向日葵だった。

それから、大運動会編はたくさんのアイドルを活き活きと描き出していたのが印象的。アイドル達の負けず嫌いさと、普段は見えない真剣な顔だったり好戦的な顔だったりがとても良かったです。そしてこれだけの数のアイドルが登場する中で、皆に見せ場があるのも良かったところ。マンガって作品の中でこの流れ、このセリフ、この表情というキメのようなシーンがあると思うのですが、この運動会編はあの子にもこの子にもそれがあって、1話の中で次から次へとキメのシーンが出てくるハイカロリー仕様。かといってごちゃごちゃしすぎずに、高いテンションをキープしながらそれぞれに見せ場をくれるのが凄く良かったです。足を引っ張ってと言おうとする結愛へ被せ気味にそんなことないと言う晴とか、背伸びしがちなありすが美波に認められてぐっとこぶしを握るところとか、この方が盛り上がったでしょうと言う桃華と梨沙の返しとか、熱血してる感じが最高。基本的に煌びやかな話ではなく、可愛いを一番に推す話でもなく、熱い話なのがU149だと思っているので、アイドルの運動会というのは最高にハマっていたと思います。

それから連載当時冷静に読めなかった梨沙編。負けん気と向上心の強い秀才タイプが周りの状況に焦っている中で、同じ演技のフィールドにこずえという天才を当ててくるのが、話としてはそれだよ分かってるなあという思いとこの先どうなっちゃうのという思いが入り混じって大変だったなというのが、今読んでも思い出されました。決着は9巻、表紙と、あとソロ曲を、期待してもいいですかね……。

【小説感想】アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾

 

4年半ぶりの新刊はそれはもう大変結構なお手前で、首を長くして待ったかいがあるというものでした。流石の面白さ。

 

帯に「冒険・バトル・伝奇全部入り闇鍋本格ミステリ」と謳われているのがまさにその通りな、あれからこれまで美味しい要素は全部投げ込みましたの500ページ。それでいてごちゃごちゃしているのかと言えばそんなことはなく、ヤバい怪物とヤバい人間たちの異能バトルと、生首の探偵による端正な本格ミステリが完璧に両立しているのが凄いところ。少女ガンマンにオネエ言葉の鎖使いの《ロイズ》、吸血鬼カーミラに人造人間ヴィクターの魔術師クロウリーの《夜宴(バンケット)》、そして“鳥籠使い”一行というあまりに濃すぎる3勢力が人狼伝説の残る村で大激突という話と、閉鎖的な人間の村とこれまた閉鎖的な人狼の里で起きている怪異がらみの連続殺人事件の謎解きという、どちらもハイカロリーな話が見事に一つの物語の中で嚙み合っています。あらゆる要素が濃いので、それぞれが食い合ったり物語上の都合が出たりしそうなものですが、話の流れは至って自然で、しかも最高に面白い。だからこそ、闇鍋だけど一つの料理として美味しく仕上がっているのが素晴らしかったです。

ミステリ的には、そんな気がしていたという部分とそれは予想外だったという部分が、あんなに何でもありな大騒ぎをやった後に極めてロジカルに解き明かされていくのが良かったところ。小説だからこその仕掛けと、ばら撒かれていたヒントがパズルのようにハマっていく気持ちよさ、そして最後の一捻り。いやもう言うことないでしょうという感じです。

また、読んでいる最中はいっそ気持ち良いくらいに掌の上で転がされていました。特に、後半にかけていやいくらなんでも可哀想と思っていたところから、当然の報いだやっちまえと思うようになって、最後にそうだったのかとなるところは、読んでいる方の感情もまさしく踊らされたという感じ。それを楽しいと思えるのも、これだけ異能が続出する物語の中でも、提示された情報の中から、しかも人狼絡みだからこその事件として鮮やかに背景が紐解かれたからなのだと思います。

あとは、〈終着個体〉(キンズフューラー)とか〈五冷血〉とか〈酔月〉とか、胡散臭くもワクワクするような、ケレン味の強い概念や技が続出するのが、やっぱり楽しいです。キャラクターも一癖も二癖もあるやつらばかりで、敵味方の間の奇妙な共闘関係とか、不思議な縁が結ばれるところも良き。総じてそうそうそういうの好きだよ、分ってるなあという感じ。そんな中でもキャラとしてはやっぱり彼女の印象がとても強かったところ。静句との関係もあり、最後に次巻への展開も用意されて、これはもう早く次の感を出してくれなきゃ困ると思う次第です。