鏡姉妹の飛ぶ教室 / 佐藤友哉

鏡姉妹の飛ぶ教室 (講談社ノベルス)

鏡姉妹の飛ぶ教室 (講談社ノベルス)

最高。傑作。後半の展開とかどうかと思う部分もあるのですが、私はこの小説が大好きです。絶賛します。以下軽くネタばれ、というか内容に触れます。
とりあえず印象としてはユヤタンがエンタしてる!という感じ。大地震。地中に埋まった学校に閉じ込められた10人の生存者。話はそれぞれに視点を飛ばしつつ進むのですが、極限状態の緊迫感とか、展開のはらはらするスピード感とか、読み手の感情を揺らす辺りとか、喋り方と特徴と思想で極端なほどキャラ立ちしてるキャラ達とか、アクションシーンとか、少なくとも西尾維新の半分くらいはエンタしています。舞台が非日常なのがいいのかも。それでも壊れた感じとか狂った感じとか歪んだ感じとか、全編に漂うどうしようもなくウェットな質感とかは確実に佐藤友哉だし、背後にある馬鹿げた設定は間違いなく鏡家サーガ。あと、文章がずいぶんうまくなって読みやすいのが好印象です。
話は密閉状態の学校でキャラクター達が、学校からの脱出だったり、『闘牛』と『闘牛士』の馬鹿げた追いかけっこだったり、復讐劇だったり、感情の回復だったり、家族愛に異性愛に同性愛だったりとそれぞれの目的をもって大騒ぎ。とにかく激しいのは思想の対立。弱者-強者、努力-諦念、逃避-戦闘、といったテーマに過剰なまでに異なる考え方を持つキャラ達が、力のあるものも力のないものも自信のあるものも自信のないものも、極限状態で自分の哲学をぶつけ合ってもう大変。この辺の思想にどうしようもなく波長があってしまうのが、多分私が佐藤友哉作品が好きな理由なんだと思います。私のぼんやり考えてるような事を、この人はさらに2、3歩先まで進めて、客観視した上で物語に出来る。うらやましい限りです。この小説ではキャラクターも魅力的ですし、文章も好きなんですけどね。
最終的には「みんな考え方もやり方も違うけど、生きてる限りは精一杯頑張って生きろ」っていうところに落ちるのですが、これはこれでいいんじゃないかと思います。前向きな佐藤友哉。前向きな鏡家サーガ。さすが例外編。それでも第12回がついてるあたりは捻くれてますけど。


ちょっとばかりセリフの引用。

「勝てない奴はゴミ人間なんです。頑張らない奴はクズ人間なんです。努力しても上昇しない奴はカス人間なんです。そしてそれは、この世に生を受けた瞬間から決まっているのです」
金井妙子

強烈な差別主義者のセリフ。なんだかもう。なんとももう。

やるしかない。
無理かもしれないなんて思考は捨てて、無駄かもなんて概念は壊して、駄目かもなんて発想は消して。
絶望は全部放り投げて、
やるしかない。

なんかちょっと頑張らなくちゃと思いました。
満足度:A