鴉 / 麻耶雄嵩

鴉 (幻冬舎ノベルス―幻冬舎推理叢書)

鴉 (幻冬舎ノベルス―幻冬舎推理叢書)

読み終わって理解を超えて、しばらくして納得。それからあーすごいなと。
文明から隔離された村にかつてこの村を訪れたという死んだ弟の影を探して迷い込んだ珂允。襲い掛かる鴉の群れに、大鏡という絶対的な神。錬金術を行っていた反逆者の老人に鬼子。人殺しの手に浮かび上がる痣。西と東の政治闘争。兄弟姉妹の複雑な感情は入り混じり、連続殺人は発生する。そしてメルカトル鮎が導く結幕へ。
あまりにも装飾過剰というか、とんでもない設定ながら、なぜか納得させられるのが不思議です。文明から完全に隔離された村の中に放り込まれた珂允が弟の影を探して行くという形でストーリーは進行しますが、珂允の考え方も村の中の裏での争いも大鏡という存在も何か気持ち悪さを持っています。そしてあまりの結幕。一から十まで全てが巧妙に仕組まれてたんだなぁと感心するしかありません。
ただ、何か仕掛けてくるんだろうと少し構えすぎて読んでいたために、いろいろなところを疑ってしまって、素直に物語に入りこめなかったです。その分だけ最後の驚きもちょっと弱かったかも。じわじわと効いてきましたが、夏と冬の奏鳴曲や翼ある闇のときのような鮮烈な印象は残りませんでした。全ての仕掛けが巧く出来すぎていたことが、逆にそう感じさせたのかもしれません。しかし、本格ミステリとは複雑なものです。システマティックすぎて私にはあまり合わないかも。ただこの人の作品はなにかこうまた読みたい気にさせます。嫌な感じの残る読後感とかそういったものが。
満足度:B+

以下ネタばれあり
なにもかも結局壮大な自作自演だったというのが、あまりにもとんでも無い結末。物語の基本的な部分が最後にひっくり返されてしまいました。そして、そう考えると珂允一人の納得のために一体どれだけの犠牲が出たのか。村を支える大鏡というシステムは崩壊し、珂允に関わった村人達は多くが死に、弟は死に、妻は明確に被害者でしかない。そして鴉によって全ては終わり、何かもう救われないことこの上ありません。
どうもメルカトルは全てを見通した神のような位置にいるキャラクターのようです。読者が物語の仕掛けに翻弄され、登場人物も翻弄される中で全てを知りつつ、事件には関わらないという完全な上位で外部の存在。そしてその言葉がそこまで正しかった感覚全てを壊してしまうという。