メルカトルと美袋のための殺人 / 麻耶雄嵩

探偵という特殊性の力強い濫用。
銘探偵メルカトル鮎の活躍が存分に楽しめる一冊でした。そしてそれに翻弄され虐められる美袋が存分に哀れな一冊でもありました。
メルカトルという探偵は話を聞いてちょっと現場を調べただけで全てを推理してしまうものだから、確かに長編で最初から登場しているところは想像できないなと思います。そしてその超越的な推理力を使ってすることの最低さったらたまりません。事件から推理から真実から全てを自分の手の内に納め、時にはそれを引き起こし、時には事実を蹂躙し、時には他人の真実を破壊して、自分の暇つぶしや金儲けといった欲望の思うままにふるまう様は、嫌悪感を通り越してある種痛快。そしていいように振り回されながら何故か友人を続ける美袋とメルカトルの関係が何か微笑ましくも思えてくる不思議。むしろちょっと萌(ry なんにしても何だか奇妙な小説です。
話は「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」が一番らしいです。この呆然とする読後感。「化粧した男の冒険」や「小人間居為不善」はメルカトルの鬼畜っぷり、「彷徨える美袋」は美袋の虐められっぷりが楽しめます。「水難」や「ノスタルジア」はちょっと投げやりな感じも。「シベリア急行西へ」は普通のミステリといった感じ。
しかしメルカトル鮎というキャラクターは強烈です。
満足度:A-