となり町戦争 / 三崎亜記

となり町戦争

となり町戦争

徹底して消される「戦争」のリアリティが薄ら寒いです。
突然始ったとなり町との戦争と、実際のところ何も変わったかのように見えない日常。主人公は偵察業務としてその戦争にかかわっていくことになりますが、どこまでいっても「戦争」らしい戦争はこの小説には表立って現れません。そして主人公はそのリアリティの不足に苛まれます。
確かに戦闘が起きて人が死んでいても、薄皮一枚のところでその事実が見えないというのは、私たちが海外の戦争に知らないところでかかってるのと似たようなもの。例え関わることによって誰かの命が救われたり失われたりしようとも。どこまでもリアリティの無い見えない戦争は実際に「戦争」を見たことのない世代にとってはリアルなんだろうと思いました。それよりもさらに踏み込んで、人の命や自分が生きていることにすらリアリティの無い現代というものが一人称で淡々と描写される様は不気味さを感じます。誰かとつながることですらリアリティが確保されないという現実。このなんとも言い難い虚無感。
戦争をとなり町との共同事業であるといい、それにしたがって業務を遂行していく様は、全てがシステマティックで合理的で、それ故に血の通わない都市的な気持ち悪さを感じました。ただ、主人公はどこまでもリアリティを感じれないこの小説で、その仕組みだけはリアリティを持っていたのが印象的です。
満足度:B