リトル・バイ・リトル / 島本理生

リトル・バイ・リトル (講談社文庫)

リトル・バイ・リトル (講談社文庫)

第25回野間文芸新人賞受賞作。
小説を読んで暖かい幸せな気分になれることを久しぶりに思い出しました。
主人公の高校を出たばかりの少女と、家を支えるの母親、そして小学生の妹という家族。そして母親に紹介されたボーイフレンドの周や書道の柳先生、二番目の父親と実の父親。そういった人々に囲まれた主人公の生活は、客観的に見れば収入面でも苦しいし、特別なことは何もなく、時間はゆっくり確実に流れ、失われるものは失われ、得られるものは得られていくようなもの。世の中の悪い部分も苦しい生活も止まらないときの流れもしっかりと受け止めつつ、家族や周などの周りの人々との繋がりの中で、ぼんやりと、でも確かに生きている様子が素敵です。主人公の目線は結構冷めているのですが、それでも諦めてる訳ではないのがいいのかと。
何気ない日常の連続を、こんなに穏やかに心地よく切り取れる感性は素晴らしいと思いました。ちょっとづつちょっとづつ生きていこうという気持ちになれる良作だと思います。タイトルのリトル・バイ・リトルが秀逸。
それにしても普段自分の読んでいる小説がいかに黒くて歪んで捻くれているかを実感させられました。
満足度:A