円環少女 4 よるべなき鉄槌 / 長谷敏司

円環少女 (4) よるべなき鉄槌 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (4) よるべなき鉄槌 (角川スニーカー文庫)

一気読みしてしまう小説には、やっぱりそれだけのパワーがあるのだと思います。
4巻になってもテンションが落ちないで、相変わらずな濃密さです。この辺りが読んでる間小説の世界に引き込まれるような感覚の要因になっているのかも。引き込む力が非常に強いので、変に客観的にならずに素直に楽しめるのが良いです。
今回は幸せな夏休みの描写を挟みつつ、仁の妹に関する回想と王子護が動き出すお話。グレンが地獄の摂理を神話的にひっくり返そうとしたなら、王子護のやり方は地獄の流儀でひっくり返そうとするもの。だから話はファンタジー色の強かった前巻から、急に現実色を増してきな臭くなってきました。準備が整ってさぁここからというところで終わっているので、続きに期待です。
相変わらず色々な要素が複合的に絡んできて先の予測がつかないのですが、この辺りはそれぞれの持っている力が大きすぎて、誰かの力が上手く発揮されればそれだけで全てがひっくり返ってしまいかねない危うさからか。この大きすぎる力を背負った極端なパワーバランスの上で成り立った戦いの中で、それほどの力を持たない仁が主人公なことが、また悲壮さとやるせなさを感じさせる一因になっているのかもしれません。
魅力的なのはキャラクター達がどうにもならない世界の中で、不器用でもそれぞれの思いを貫いて生きて戦っていること。繰り返される「いつか」のフレーズは、絵空事のようでもやっぱり痛切です。そしてその結果かなりぶつかり合っていますが、そのぶつかり合いが魅力でもありやるせない気分になる部分でもあります。あと、欺瞞に満ちてると知っていてもあがき続ける仁の姿の理由を、妹を失った過去の出来事から垣間見る事ができたのは良かったです。
しかしなんというか、すっかり巻き込まれた寒川さんは可哀想すぎないかなぁ。魔導師が一般的な生活をおくると、どうしても一般人を巻き込んでしまうことの象徴みたいな感じではありますが。
舞台も役者も揃ったので、続きには非常に期待。見所も多すぎて絞りきれませんが、個人的な見所はメイゼルの過去、エレオノールのこれから、そしてきずなの担う役目でしょうか。
満足度:A-