神様のメモ帳 / 杉井光

神様のメモ帳 (電撃文庫)

神様のメモ帳 (電撃文庫)

ニート探偵と書かれるとキワモノな匂いがしますが、中身は至って真っ当。
全体に漂うアンニュイでメランコリックな空気が肌に合いました。高校生のナルミと彼を園芸部に誘った同級生の彩夏。彩夏のバイト先のラーメン屋にたむろするニートたち。そして、NEET探偵事務所を開くひきこもりの少女アリス。普通の生き方から少しずつ外れた、社会に適合しない人々の生き方が興味深いです。ベクトルが違うとはよく言ったもの。もちろん、逆方向に進まれても社会としては困ってしまう訳ですけど。
主人公のナルミはコミュニケーションが苦手な感じで、彩夏との関係が何となく上手くいかないまま、彩夏の兄のトシ、謎のクスリ「エンジェル・フィックス」、そしてクスリを追う4代目率いる平坂組と依頼を受けたアリスを中心に事件は廻り始めます。この事件が起きてからの展開は息苦しさと無力感に満ちていて、あまり楽しいものでは無いのですが、何故だかそんなに嫌な感じはしなかったです。
事件に関わる中で、ナルミはあがき、もがき、それでも手が届かず、逆に最初からそこに何も無いと気付くばかり。何のために生きるのか、何をなすべきなのか、何ができるのか、何故そうするのかといった自問自答は巡り巡って虚しさにたどり着くばかりというのが、火目の巫女でも感じられたこの人の小説も持ち味か。ただ、火目ではあの世界の仕組みというものが中心にあったのに対して、ここで語られるのは極普通の日常の中の空虚さなので、ちょっとキツイものがあります。結局のところ、明確な答えは見つからないままですし。それでも、そこにある繋がりが、彼をどこかに導いてくれると良いなと思いました。
個人的には好みでしたが、良く出来ているという印象を超える何かが欲しかったのも事実。傍若無人さと弱さを併せ持つアリスのキャラは結構好きですが、キャラクターの面でもう一歩押しがあればとか、ミステリ的な驚きがあればとか、ニートという生き方を巡る問題にもっと深く切り込んでいった方がとか、ないものねだりな気分です。何かが突出するとバランス的に崩れるのかもしれませんが、それでもどこかに凄みみたいなものを感じさせてくれれば、一気に大好きな作品になりそうなだけに。続きが出るとしたら、期待しています。
満足度:A-