アリフレロ キス・神話・Good by / 中村九郎

独特という言葉では収まらないセンスだと思います。
話自体はいまいち何がなんだか分からない部分が多いのですが、圧倒的な流れというか、ドライブ感で持っていかれます。一つ一つの意味の分からない事象が積み重なって生まれる、独特の疾走感が中毒的です。
キャラクターの思考や物語自体がどういうものであるかもいまいち分かりにくいのですが、ざっくりといえば神々の為した神話とその神話の遺産を巡る争いに巻きこまれた少年少女の物語で、異能バトルものとしては極めてオーソドックスな話。少年の前に異能の少女が現れるのも、その少女達が絡んだ神話を巡るVIPという裏世界の存在たちの争いに巻き込まれていくというのも良くあるパターンと言えばよくあるパターン。でも、それだけで終わらないのがこの小説の面白いところ。展開にしても、小ネタや会話のセンスにしても、ちょっと普通じゃない発想が連発されるので素直に凄いと思います。
話は広げられそうな部分を見事に広げないで、あくまでも主人公である三井川の物語としての領域を守った感じ。世界レベルの話をしていながら、結局全てを操れる人物などいなくて、それぞれがそれぞれの物語の中で懸命に生きているだけというのが逆説的な感じでした。
非常にとっつきにくく読みづらいですですが、読んでいる間は非常に面白かったです。この世界の物語はまだ語ることができそうなので、続編などが出るといいなと思います。
満足度:A-