イニシエーション・ラブ / 乾くるみ

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)

極めて普通の恋物語でした。
時代は80年代の後半、バブルを控える煌びやかな時代の中で、内気で奥手な青年と不思議系の女の子の恋物語が展開します。Side-Aは、数合わせで呼ばれた合コンで鈴木という青年が、マユという女の子に出会い、恐る恐る一歩を踏み出して付き合い始める話。何かもうベタベタで、その上やたらと二人の関係が上手く行くので、なんだこれとさえ思ってしまいます。そしてSide-Bは、鈴木が就職して東京に出向して、遠距離恋愛になった二人の話。静岡と東京という大きな距離に少しずつ離れていく二人の心的な感じ。これもベタベタ。勢い良く減っていくテレホンカードの度数が、時代を感じさせます。でも、まぁ恋愛小説として読みたいなら微妙な感じ。
そんな普通の恋物語と紹介して感想を〆たい所ですが、そうも言っていられないのがこの小説の面白いところ。再読必死の仰天作というのは紛れも無い事実で、読み終わった後の驚きはさすがミステリ作家乾くるみと言う感じです。正直この仰天作という帯も乾くるみがミステリ作家であるという事実も、知らないで読んだほうが面白いと思いますが、そこはまぁ仕方が無いところでしょうか。
満足度:A-


以下ネタばれ注意!


読後は読んでいたはずの純愛物語と現実におきていたことのギャップに笑うしかないというのが素晴らしいです。本当に男はバカですね。
「鈴木」に関してのトリックは違和感を感じさせる部分が多すぎたので途中で気がついていたのですが、まさかこういうリンクだったとは・・・・・・。鈴木Bの方は酷いやつだと思いますし、鈴木Aの方はモテる訳無いよなと思いますが、それにしたってマユのこの黒さは凄い。「便秘」ってあなた。たっくんにこだわる狂気。でも、こういうタイプの不思議系は実際こういう性格だったりする・・・・・・というのは偏見でしょうか。
ただ、全体を通してみれば、初恋に遠距離恋愛と浮気、そして一途な恋という全く奇を衒わない真っ直ぐな恋愛だったと言えるわけで、そういう意味では平凡な恋愛小説でもあったのでしょう。ただ、なんかベタ過ぎて読むのが辛くもありましたけど。
でも、この苦笑いのこみ上げる読後感を味わうためだと思えばそれも許せる気がするのです。