嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん / 入間人間

しまった。ツボにハマった。
読みだして数ページで、あぁこれは私の好みに違いないと確信できる作品を読めるということは、たぶん幸せなことなのでしょうけど、でもこれがど真ん中ストライクっていうのはどうなのよと自分でも思わなくもない、そんな心境。
話としてはまさしく嘘つきのみーくんと壊れたまーちゃんの物語。かつて誘拐事件に巻き込まれた二人の織りなす、狂った物語です。虚言と軽口でが目いっぱい詰め込まれたテンポの良い展開といい、キャラクターたちの素敵なイカれっぷりといい、殺人と誘拐の絡んだミステリ仕立ての物語といい、どうしてもファウスト系周辺を思い出すところではあるのですが、その周辺界隈の作品が持っていた切実さがまったく感じられないというのがこの作品の特徴かと。
みーくんもまーちゃんも、精神科医と警察官の主要キャラクターも、倫理観が欠如してるというか、何かが狂っている感じではあるのですが、その狂い方には悪趣味さはあっても悲壮感がありません。なんというか、こんなにもうダメな感じなのにもかかわらず、ちっとも切実ではない感じ。どうしようもなくどうにもならない世界を敵に回して必死で生き伸びるのではなく、ただひたすらに空っぽ。そしてそれをエンターテイメントに仕上げてしまうという作品としての悪趣味さ。それは薄っぺらいとも言えるのかもしれませんが、ある意味、切実であることよりも深刻なことだと思うのです。読んでいて不愉快にすらならない、もう、終わってしまっている感じ。
まぁ、そういうことは置いておいても、明確な理由もない誘拐だの、誘拐犯に懐く兄妹だの、自分自身が病んでいく精神科医だの、戯言を繰り広げる警察官だの、嘘つきな主人公だのキャラクター小説としてもなかなか。会話の掛け合いも面白いですし、話の方もちゃんと面白かったです。
あぁ、もう、大好き。
嘘だけど。
満足度:A