人類は衰退しました 2 / 田中ロミオ

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

人類は衰退しました 2 (ガガガ文庫)

ふにゃふにゃスイートな見た目とは相反して、中身は大変濃密でした。
今回は2編収録。色々ネタバレになってしまうので書き辛いのですが、どちらもほのぼのシュールの皮をかぶってはいますが、かなり本気のお話だったとだけは。これだけの要素を取り込みながら、作品の持つ雰囲気は崩さないで、しかもそれを料理しきってしまうこの人の力量はちょっと凄いと思います。妖精さん科学が巻き起こす不思議現象は、どこか幻想的な素敵時空に読者を誘うのですが、その裏側では様々な要素が綿密に仕込まれているという驚きの事実。
1話目の「人間さんの、じゃくにくきょうしょく」は、妖精さんのハイテクノロジー無駄遣い道具のひとつで、私が大変なことになってしまうお話。妖精さんスプーンの力で小さくなってしまった私が妖精さんを探して大冒険に出るというスタート地点からはじまるのですが、その先の発想力が素敵です。ハムスターの高度文明とか何事かと。そして明らかになるスプーンの秘密と驚愕の結末は、正直背筋が寒くなる想いが。「わたし」が変わると、認識も変わるなんて哲学的な主題も絡めつつ、でも本筋はすっとぼけているという変な感じでした。そして、ハッピーエンドには決してならないオチの怖さが、倫理の観念を持たないものがテクノロジーを濫用するとどうなるかを示唆してるような教訓深さを感じさせないこともなかったような。
2話目の「妖精さんたちの、じかんかつようじゅつ」は、本気のタイムループもので、SFに慣れてない私には途中からもう何が何だか。単純なタイムループではなくて、パラドックスの発生を強引な超科学でねじ伏せてるみたいなので余計訳が分からないという。めくるめく幻惑的なイメージにやられっぱなしでした。
とりあえず分かったこととしては、助手さんの自分探し、タイムループ、妖精さんの悪?巧み、わたしの成長物語、おじいさんの過去という一見関連しなそうなたくさんの要素を鮮やかに一つの話にまとめてしまったということ。正直脱帽なのですが、むしろどれだけの人がついていけているのかに不安が残るような。単純にとぼけた会話の応酬だけでも十分面白い話なので、その辺りは大丈夫なのかもしれませんが。
そんな訳で満腹の一冊。難解になりすぎないことを願いつつ、次の巻を待ちたいと思います。


少しだけネタバレ。
それにしても、わたしにとっての助手さんとの出会いは卑怯すぎます。だって、将来時点まで含めて完璧な理想像を描いた上で、真っ白なところに人格を上書きしたら、それはもう理想の彼氏になるに決まっているじゃないかという。まさに妄想の具現化。そして、わたし達の会話から行くと、これはもう結婚すら規定事項なのでしょうか?