征服娘。 / 神楽坂淳

征服娘。 (集英社スーパーダッシュ文庫)

征服娘。 (集英社スーパーダッシュ文庫)

貴族! 貴族!
気品があって、頭が切れて、野心を秘めた13歳のお嬢様マリアが、男社会を撃ち破り世界を手にしようと動き出す物語。
名門貴族コントラーリ家の一家に生まれ、自らが貴族であることを自覚しながら、庶民や奴隷に対してもきちんと向き合って対応をするマリアが素敵すぎます。むやみな優しさや憐憫の情を振りまくのではなく、そこにある明確な違いを踏まえた上でのフェアな対応をするあたりがカッコいいのです。貿易の才を持ち頭も相当に切れるながら、お嬢様らしい世間知らずな部分や、頭に血が昇りがちな子供っぽい部分も持つマリアのキャラクターだけでも、十二分に楽しめる小説でした。そして、マリアが出会うことになる裏社会を牛耳るヴェニエル家の娘ラウラとの関わり、マリアに忠誠を誓い付き従う、マリアにとって親友であり謎を秘めた侍女であるアッシャとの関係も良い感じ。
野望の渦巻く世界の中での、演技に演技を重ねたお互いの腹の探り合い。自分の思うように事を運ぶためには人を殺すことも、自分を殺すことも厭わない強かさ。そういう魑魅魍魎とした貴族の世界と、庶民の街であるカステレット、マリアの入った修道院、そして奴隷や海の男たちの世界が描き分けられているのも好印象。世界背景がしっかりとしているので、ストーリーを安心して楽しめます。
ただ、莫大なお金と大勢の人命を操り、世界の情勢すら左右する貴族を描いている割には重みというか、凄みのようなものを感じられないのがちょっと残念。ジャコモや2人の兄に関しての描写は薄さを感じる部分がありますし、切れ者とは言えマリアの行動は「子供のやること」の印象から抜けていない感じも。
それだけに、これからマリアが何を見て、何を感じ、何を為していくのか楽しみ。ストーリー的にはまだほんの序章な感じなので、これから先の展開に期待大です。
あと、内容には関係ありませんが、誤植が多く感じたのが気になりました。読んでいて物語から引き戻されてしまう感じがするので、なんとかして欲しいと思います。