under 異界ノスタルジア / 渡那和章

under―異界ノスタルジア (電撃文庫)

under―異界ノスタルジア (電撃文庫)

第14回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作。
購入動機は表紙にひとめぼれだったのですが、中身の方もかなり良かったです。
話の内容はオーソドックスな異能もの。現世で死んだものの魂が還り、溶け混ざり合って転生するための「異界」。現世に未練を残した魂の想いや、異能者たちの力によって、現世を侵食する異界を還す「異界使い」の物語。
主人公の高校生唯人は失踪した兄からの手紙によって、異界使いたちの探偵事務所を訪れ、そして怪異に関わっていくという感じの話。学園異能ものと呼ばれる一群の作品に近いですが、非日常の濃度がずっと強くて、そこが割とダークでシビアに描かれていることが特徴。ラノベらしさを保ちながらも、どこか冷たい質感は好みでした。狂気的なものや暴力、グロテスクなものを描きながらも、ちゃんとエンターテイメントしていて不快な気分を残さないあたりも良かったです。
そして、主人公である唯人が、都合のよい力を保持していたり、逆に過剰なまでにヘタレだったりしない等身大のキャラクターだったことも好感。異能の世界に対しての自らの無力さを噛み締めながらも、芯の強さを見せてくれるのが良かったです。
異界の設定、癖の強いながら魅力的なキャラクター、テンポが良く先の気になるストーリーと高いレベルでまとめられていたと思います。反翼の魔女の唯我独尊で傲岸不遜なキャラクターやワンフレーズの罵詈雑言を吐いてくる幼女レムのキャラクターなんかは良い感じ。反面、全体的に既視感のある部分が多くて、underといえばこれというものは見えなかった気もします。あと、非日常に対して唯人はちょっと簡単に近づきすぎで、探偵所の面々は簡単に引き込みすぎな気も。その辺りは粗探しの領域な気もしますが。
まだまだ続きがありそうな終わり方をしているので、この先の展開に期待大です。


以下ネタバレありにつき反転
唯人のラストでの決意と覚悟は灯香への想いがそうさせた感じなのですが、そういう部分は紗雪を想うあまりに道を外してしまった兄戒人に重なる部分があってちょっと怖いものが。この先唯人がどうなっていくかというのも、気になるところです。