ベン・トー サバの味噌煮290円 / アサウラ

「なぁ、佐藤。


 お前にとって半額弁当はただ売れ残って古くなった弁当でしかないのか?」

異色作。強烈なバカ小説。ですが、それだけで片付けることの出来ない特別な何かを、確かにこの小説は持っていました。
食費の節約のためにスーパーで半額弁当を買おうとした高校生佐藤は、「何か」に巻き込まれ次の瞬間吹き飛ばされる。たまたま出会った少女白粉とともに、彼はスーパーで繰り広げられる半額弁当を巡る「狼」たちの戦いに巻き込まれて、みたいな話ですが、その本質はいたってシンプルに半額弁当の争奪戦。店員たるアブラ神が半額のシールを張り、そしてスタッフルームに消えた瞬間に始まる誇り高き戦い。
客観的に考えたら明らかにどうでもいいようなことで、読んでいて最初はアホなことを大真面目にやるというタイプの一発ネタ系バカ小説だとしか思えません。なのに、理不尽としか思えないような目にあってもなぜか毎晩スーパーを訪れてしまう佐藤たちに導かれるように、「狼」たちの戦いを知り、そのルールを学び、そしてその気高さを知って、気がついたらこの上なく熱く誇り高い勝負の世界がそこにあるような気がしてくるのだからちょっとこれは凄いです。過剰な比喩表現に彩られた演出過多気味の描写、〈氷結の魔女〉や〈魔導士〉という大袈裟に過ぎる二つ名、そして人知を超えているのではないかと思わせるような緊張感ある闘い。最初はやりすぎ感すら感じさせたそれぞれの要素が、半額弁当を巡る闘いの世界としてきっちりとはまっていく感覚。文章のドライブ感、作品の持つ熱量にすっかりやられてしまいました。
そして、ストーリー自体も客観的な価値ではない、自分にとって本当に大切なものを主人公である佐藤が見つける物語として、よくよく考えると実に王道な感じにまとまっています。同じ争奪戦でも、バーゲンセールやコミケ会場ではなく、半額弁当というのがまた絶妙。彼を導く〈氷結の魔女〉や〈魔導士〉の存在、共に歩む白粉、そして闘いを共にする狼たちと、キャラクターの配置もかなり王道。その上、ストーリーの運びは上手いし、バトルシーンの描写も確かなので、実はかなり完成度は高いのではないかと思います。内本君や石岡君の扱いは、ギャグにしたってさすがにシュールすぎるというか、意味のわからなさを感じたりもしましたが、それも味といえば味なのかも。
キャラクターの方も強烈。主人公の佐藤はマトモなようでネジの外れたバカな気がしますし、マッチョ好き腐女子な白粉ももはや腐女子というかただの変態なんじゃないかと。他のキャラクターたちもどこかしらタガが外れた感じで、強烈なインパクトを残してくれます。その反面、ちょっとくどすぎる気もしなくもありませんが。
なんだか得体が知れないけど熱いものを読んだという感じ。最初は一発ネタだと思っていたのに、読み終わったら氷結の魔女と魔導師の間の因縁や、ダンドーが率いる猟犬群の闘いぶりなど、続編に期待することができてしまいました。