死神の精度 / 伊坂幸太郎

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

死神の見た人間の物語。
これから死を迎える人間のもとへ向かい、身辺調査の上その人物の死に対して可否を決定することが仕事の死神。さまざまな姿で現れる死神千葉の視点から、さまざまな人間たちの最期が描かれます。
この死神のキャラクターが秀逸。仕事は仕事と割り切り、人間の死に興味はないと言いながら、気がつくと調査対象に深く関わっていたり、すべてを見通しているようでいながら、知識が抜け落ちていてとぼけて見えたり、他の何よりもミュージックを愛していたりと、なかなかに魅力的です。このキャラクターによって、あくまで第3者の立場を保ちながら、人間の常識を外れた客観的な視点で人間の生きる様を描いているのが、近づきすぎず離れすぎずの絶妙な距離感だと思いました。これ以上近いと重たいし、これ以上遠いと味気ないという。
6篇の短編が収録されていますが、それぞれの話も気がきいた感じで良かったです。無関係でばらばらな話に見えて、ところどころにリンクが見えるのも憎い演出。吹雪の山荘から極道の世界、真っ向勝負の恋愛ものに逃亡ものと話自体のバリエーションも豊かでした。話の中では、「死神対老女」の老女の、悟ったようでいながらきわめて自然体で人間らしい生き様が、本当に素敵だと思いました。
しかしなんというか、褒めるところしかないはずなのにどうしてもあまり好きになれないのは何故。巧すぎるから感心すれど好きにはなれないのかとも思いましたが、むしろ、伊坂作品の軽妙で洒脱な空気はどうにも私には波長が合わないだけなのかもしれません。惜しい。実に。