砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 上下巻 / 桜庭一樹・杉基イクラ

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 上 (単行本コミックス)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 上 (単行本コミックス)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 下 (2)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 下 (2)

小説版を読んでいてもなお感じるこの衝撃。読み終えてしばらくは放心状態でした。
原作小説は桜庭一樹出世作。そして、私の人生の中でベストの小説。杉基イクラによるコミカライズと聞いてこれはハマるんじゃないかと思いながらも、原作があまりに鮮烈すぎてどうやっても物足りなく感じてしまうのではないかと、期待半分不安半分だったのですが、読み終えてみれば素晴らしい出来でした。傑作。
マンガであるがために一人称ではなく第三者の視点で描かれるのですが、そのことでここまで痛ましさが増すとは。山田なぎさと海野藻屑という2人の少女が等身大の中学生の少女として描かれることで、なぎさの実弾からも、藻屑の砂糖菓子の弾丸からも、リアルな暴力の匂いからも、目を反らすことができないのだと思います。そして、表情の描写の繊細さや、閉塞感が覆う田舎町の空気が、物語の輪郭を一層はっきりさせているだと感じました。
なぎさも藻屑もこういう少女で、この街はこういう街だったのだと思わせるマンガ全体の雰囲気も良かったです。濃縮されて、冷たく研ぎ澄まされた物語の持つ空気を見事に表現していると思います。
個人的な話ですが、マンガと小説の違いなのか、物語的には再読であるからなのか、あるいは私自身のこの数年での変化なのか、読んでいる時になぎさと藻屑の世界だけに没入しないで、大人の理屈の方も理解できたように思います。なぎさに言葉にし難い強い共感を感じていた昔と比較すると、物語への距離ができてしまった気がしてさびしくもありますが、距離を置いてみればそれはそれで「好きって絶望だよね」という言葉の苦味を、噛みしめるような思いがするのでした。やっぱり、傑作。