ルート225 / 藤野千夜・志村貴子

ルート225 (シリウスKC)

ルート225 (シリウスKC)

大好きなのですが、読むのにパワーがいるのでどうも積みがちになってしまう志村貴子作品。どうしてそんないパワーがいるのかといえば、この人が描く少年少女の心理描写は心のなかの触れて欲しくない部分を的確に突いてくるからな気がします。身悶えして目をそらしたくなるような瞬間が数ページに一回あるという。
そんな志村貴子のコミカライズ作品。突然今までの日常から少しだけずれたパラレルワールドに迷い込んだ姉弟のお話。何も変わっていないように見える世界の中で、両親がいなかったり、死んだはずのクラスメイトがいたり、マッチョは相変わらず親切だったり。元の世界に戻ろうと色々試す弟に、最初は信じなかったけれど信じざるを得なくなっていく姉。
何重にも続くパラレルワールドの中で、自分がどこにいるのかわからなくなるような地に足のつかない感覚が味わえました。この状況そのものが14歳、15歳の少年少女のフワフワ加減に絶妙にシンクロしているような感じ。物語的には投げっぱなしに思えるようなラストも、そう考えるとまとまり方としては良いのかなと。
淡々とした描写で進む中に、繊細な心の動きを込める辺りはさすがの一言。一見さばさばしている姉の中に、寂しさとかいらいらとか愛しさとかが垣間見える様子は巧いなぁと思います。この巧さが、読んでいて感じる気恥ずかしさの源泉ではあると思うのですが、それでも何とも言えない魅力を感じるのです。