神様のメモ帳3 / 杉井光

神様のメモ帳〈3〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈3〉 (電撃文庫)

あぁもう不器用で優しいバカばっかりだよ、本当に!
記憶をなくして戻ってきた彩夏。そんな彩夏とのぎこちない関係を続ける中で、園芸部が廃部にされるという話が持ちあがってくる。園芸部を何とか守るために、園芸部について調べ始めた鳴海。そして明らかになる過去に起きた生徒の死亡事件、そこにはテツ先輩が絡んでいて。
死者を代弁し、明かされるべきではなかったかもしれない真実を白日の下に晒す探偵という存在がどういうものであるのか。それを知らないはずがないアリスだからこそ、テツが関わった事件を解き明かすことがどういうことか分かっていて、鳴海だってそのことには気がついて。
そんな互いを傷つけ合いそうな状況で、関係にひびが入ってもおかしくない事態で、現実はどこまでもシビアで。それなのに、どうしてこいつらはこんなに優しいのか。
誰かのことを想って、自分のことは省みず、でも不器用ですれ違って、ぶつかりあいもして、現実は現実としてそこにあって、それでも。殴り合うことでしか決着を付けられなかった鳴海もテツ先輩も大バカ野郎だと思うのに、でもこれで良かったんだなと思える温かさが全編を包んでいるのがすごく良かったです。
この優しさは、この温かさは、あまりにも都合の良いファンタジーなものだと感じながらも、読んでいると思わず涙腺が緩んでしまうような、そんな素敵な物語でした。
ただ、このトリックはちょっと無理があるんじゃないかなぁとも思ったり。そこが主眼の小説じゃないとは思いますし、それでこの小説の素敵さが損なわれるわけではありませんけど。