死図眼のイタカ / 杉井光

死図眼のイタカ (一迅社文庫)

死図眼のイタカ (一迅社文庫)

地方都市を支配する謎多き旧家朽葉嶺家。母親と4つ子の娘という偏った家で、次期当主の婿として育てられた少年マヒル。迫ってくる後継ぎを決める儀式、街で起こる少女怪死事件、そして人在らざるものを狩る殲滅機関の二重人格少女藤咲とイタカとの出会い。
朽葉嶺という大きな謎を軸に、マヒルの周りで起こっていく奇妙で残酷な出来事の果てにたどりついたのは、ただの悲劇か、幸せな結末か。手の届かない、異形の者たちに振り回され、どうしようもなくきつい現実を見せつけられていく様は、やるせないものがあります。そのマヒル自身も、どこか危うい、得体の知れぬ空恐ろしさみたいなものを感じさせてはくれるのですが。
個人的に、こういう謎多き旧家という閉鎖的で神秘的な設定は好みで、占い事や伝承、祭事といったキーワードも惹かれるものがあります。そして多くの場合やるせない、哀しい展開をたどるような気が。その部分を含めて好きといえば好きではあるのですが。
設定からキャラクターまで隙がなく、作品の完成度は高い感じで楽しめました。シリアスで暗い空気の作品の中で、やたらとハーレムちっくになるのは若干違和感がありますが、設定上そうなるようにできているのだから構わないのかも。ただ、もう一歩これという決め手には欠けていたかなとも思います。作者の過去作品から、もっと打ちのめされるような酷な展開が待っていると身構えていたからかもしれません。
マヒル自身の話を含めてまだ語れることはありそうで、続編があれば期待したいのですが、これ一冊できれいにまとまっているような気も。それよりも、作者の人がこれ以上シリーズを増やして大丈夫なのかが問題のような気も……。