- 作者: 東野圭吾
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/08/05
- メディア: 文庫
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ガリレオシリーズはドラマでしか知らなかったのですが、その辺りは特に問題なく。話的には、何かと付きまとい金を要求する元夫を衝動的に殺してしまった母と娘、そしてその母娘を救おうと完全犯罪を組み合たてる石神という男の物語。
天才的な数学者でありながら、研究者の道を外れ高校の先生として過ごす男の、あまりにも一途すぎた想い。ただの隣人、それだけの存在のはずの靖子に対して犯行偽装を買って出た石神が、どれほどのものを抱えて、何を為したのか。ストーリーの進行とともに明らかになるその事実はあまりにも強烈でした。
ロジカルに絶対的な完全犯罪が綻んでいくのは、人の感情の揺らぎのため。幸せを想ったはずの一方的な愛情はあまりに身勝手で、重すぎる想いを一身に受ける彼女の迷いもまた身勝手で。それだからこそ行き着いた結末は残酷。それでも、ロジックしかない世界で生きてきた彼にとって、その感情がなければ何も始まらなかったのだから、事件が起こらなければ関わりもなかったのだから。
そしてその石神を追い詰める立場に立つ湯川と石神の関係も良かったです。数学と物理学とフィールドは違えど、確かに通じ合った2人の天才の再会がこういう形になっていくとは。誰よりも石神を理解して、誰よりも認めているからこその湯川の苦悩もまた重たいものがあります。人間はロジックだけでは割り切れなくて、だからこそ哀しく愛しい、なんてベタなことを思わされたり。
冷たいロジックで紡がれたトリックと、その周りに絡み合う静かに熱を帯びた情念のコントラストが美しい作品でした。一冊通して隙がないというか、無駄無くあるべきものがあるような展開もさすがはベテラン作家という感じ。福山雅治主演の映画の方も期待しています。