泣空ヒツギの死者蘇生学 / 相生生音

泣空ヒツギの死者蘇生学 (電撃文庫)

泣空ヒツギの死者蘇生学 (電撃文庫)

連続猟奇殺人犯「破砕破片」の影が覆う街で、主人公の氏姓偲は殺され、そして死霊義装士の少女泣空ヒツギによって蘇らせられる。首だけとなった偲に少女は語る。自分が、破砕破片その人であると。
そんな最悪に近い出会いから始まる物語は、非日常に巻き込まれる主人公と非日常を生きるヒロイン、そして日常側を象徴する幼馴染の少女という典型的なキャラクター配置で、非日常に引きずり込まれ、そしてヒロインを狙う組織との戦いに巻き込まれていくという実に王道なパターンのもの。プライドが高く傲慢でいながら、子供っぽくて素直になれないヒツギの性格もいかにもな感じ。
文章的にはいわゆる饒舌系の文章で、特殊な読み方をする名前や、仮名ルビを振った特殊用語も実にそれっぽい感じ。ただ、この文章がいまいちスムーズではないというか、饒舌な分回りくどい言い回しになってしまって分かりにくかったり、言葉遊び的な意味でもちょっと空回ってる印象があったり。話の中でも、キャラクターの心情がいまいち追いにくい部分があったり、シリアスとギャグの切り替えが不自然だったりと、どこかギクシャクしている印象が最後まで抜けない感じでした。
そんな訳で序盤は随分読み辛いと思っていたのですが、中盤からの展開にはそんなことは忘れてしまうような勢いがありました。ベタな導入で入って、ベタな展開をしていたはずの物語が、突然予想の斜め上はるか上空に飛んでいき、そのままテンションが下がることなく駆け抜けていったという驚き。予感めいたものはあったのですが、私の予想を遥かに超えていくような展開に思わず眩暈が。
そんな訳で後半はとんでもなくヤンデレな物語だった訳ですが、相手の幸せすら自分の基準でしか測らない、身勝手で幼稚な愛情の押し付けっぷり、そしてそのための行動の迷いの無さは恐ろしいものが。主人公の周りの人の気持ちや後先を考えないおせっかいぶりもあまり好きになれないのですが、このヤンデレぶりはもはやそういうレベルではない感じ。なかなかおぞましいものを見せてくれました。
話は良く考えられていると思いますし、意外性のある展開は面白かったのですが、キャラクターにしてもストーリーにしても、いまいち見せ方が上手くないのかなという面も感じる一冊でした。ただ、光るものはあると思うので、もう少しこなれてくるともっと良くなるかなと期待。
そして笹倉綾人のイラストは可愛い絵から鬼気迫る絵まで非常に良かったと思います。マンガが本業の人ですが、是非イラストももっと描いてほしいなと思いました。