推定少女 / 桜庭一樹

推定少女 (角川文庫)

推定少女 (角川文庫)

「逃げよーぜ、巣籠カナ」

桜庭一樹初期作品の角川文庫化第2段。ファミ通文庫版では収録されていない2つを含む、3つのエンディングを収録ということで、久しぶりに読み返してみました。
ある出来事から警察に追われて、逃げだした少女巣籠カナ。ゴミ捨て場でララの銃を持って凍っていた記憶喪失の少女に白雪という名前をつけて、2人の少女は夜の街を逃げる。向かうは東京、秋葉原、火器戦士の少年千晴との出会い、裏山に落ちたUFOと宇宙人、逃げだした精神病患者、誘拐された女の子、電脳戦士とゲーム。
ふわふわしていて触れれば崩れてしまいそうで、でもどこまでも切実な何かが織り重なって紡がれる物語は、かつて少年少女だった人たちの心に重たい衝撃を残すと思います……たぶん。個人的には、初めて読んだ学生時代に比べると、カナの立場で物語に入り込める度合いは減って、でもそれだけに今読んで見えてくるものもあって、むしろそれは最初に読んだ時よりもずっと衝撃的なのかもしれない感じ。
話的には何だかごちゃごちゃしているというか、たくさんの要素があって、少年がいて少女がいて大人がいて大人になれなかった大人がいて、色々な物が詰め込まれた掴みどころのない感じですが、それが作品の空気には合っているような気も。そして文章とか、台詞とか、ちょっとした表現はページ単位でドキっとさせられます。大人の世界を前にした、不適合な感じというか、分からなさというか、そんな感じのものを繊細に描いているあたりはやっぱり凄いなぁと。甘いのに痛いような変な感じ。
3つの結末は、個人的には、1は投げっぱなしな感じで、3は語り過ぎな感じなので、やっぱりオリジナルの2の結末が好きです。2,3の日常に回帰して少しずつ進んでいけるような結末に対して、そのままどこかえ消えてしまいそうな1の結末も凄く良いのですが、でもやっぱりハッピーエンドが欲しいなと。でも、そう考えると3つの結末が示されているのも、これはこれでありなのかも。
苦しくてもやもやして訳わかんない世の中で、甘ったるい子供の世界を手にして逃げて闘う少女の姿を描いた桜庭作品はやっぱり大好き。「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」と「少女には向かない職業」とこの3冊は、私にとってどれだけ特別な作品であるかを再確認した1冊でした。