黄昏色の詠使い Ⅷ 百億の星にリリスは祈り / 細音啓

名詠式、そしてそれを巡る人々にまつわる謎が明らかになる一冊。
ミクヴァ燐片を巡るシャオ達とネイト達の闘いの中で、シャオの口から、そしてアーマの口から、意図的に隠されていた名詠式を巡る謎が明かされます。世界に対しての高次存在の争いと、その中で繰り返される悲劇。最大多数の最大幸福を願うような大きなシステム的なものが働く世界の中で、どうしても救われない存在と、ごく小さく、でも確かな自分たちの想いをかけて、ネイト達は立ち向かうような感じ。
この設定自体は非常に面白くて、言葉遊び的な部分も含めた世界の組み立て方は魅力的だと思うのですが、ただちょっと一気に語りすぎかなという感じも。1巻のほとんどが設定語りに費やされるので、視点と語り手を移しながら語られるものの、なんだか設定資料集を読んでいるような気分になります。資料集は資料集で面白いけれど、でもやっぱり小説としては流れが悪いというか、物語の世界からどうしても距離をとってしまう感じがして、そのために全体的に薄く感じてしまう部分があってなんとも。
そういう部分があったので、後半のネシリスとファウマのバトル部分にもう一つ入りこめなかったのが残念な感じ。シャンテとネシリスの互いを信じあう関係や、ファウマの自分を犠牲にしてでも、自らの信じた道を生きるところは魅力的だっただけに。
とはいえ、やっぱりこの作品の持っている空気感みたいなものは凄く良いです。物語の背景が明かされたことで次の巻はいよいよクライマックス。覚悟を決めた2人だから、彼らの周りにはたくさんの支えてくれる人たちがいるから、クルーエルとネイトが、信じ、求める未来を掴めることを願ってやみません。
余談ですが、こういうそれぞれの組み合わせに分かれたバトルとか、異世界的な空間とかが出てくると、RPGっぽいなぁと思う私がいます。何故……?