プリンセス・ビター・マイ・スウィート / 森田季節

取り留めなく始まり、取り留めなく終わっていく、タマシイビトの物語。
前作「ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート」が奪われるためにある存在のイケニエビトの話だったのに対して、今回は奪う存在であるタマシイビトの少女チャチャを巡る物語。
話の大筋は人の記憶を食べることで生きるタマシイビトの少女と人間である少年の種族の壁に阻まれた恋物語で、その意味では非常に王道なのですが、語り口の掴みどころのなさが不思議な読書感を与えてくれて面白いです。
章ごとにチャチャが恋する高校生、チャチャの弟、兄、そしてチャチャ自身と視点を変えて描かれていたり、チャチャの故郷や死見会の存在が見せる断片的に浮き上がっては霧散していくような不思議なイメージなどがこの雰囲気を作っている感じ。
最後まで捉えどころがなく、結局何も解決していないような気がするのに、読後はいやに爽やかで前向きな気分になれる辺りまで、非常に不可思議な物語だと思いました。明確な意味やストーリーよりも、幻想的な雰囲気で読ませるといった感じ。
キャラクター的には丁寧な言葉遣いで相手を弄ぶチャチャが素敵な性格。そしてチャチャにいつも遊ばれている、女の子みたいな弟君の、何よりも姉を想って頑張る様子が素敵でした。この二人は、血は繋がっていなくともとても良い姉弟だと思います。