サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY / 河野裕

乙一絶賛!!」の帯に思わず手を出したスニーカーの新人作品。
透明感のある綺麗な文章で、一定の体温を保ったままに淡々と語らる物語で、この雰囲気というか文章が非常に良かったです。主人公とヒロインの2人の視点を行き来するのですが、語り手は変わっても雰囲気そのものは変わらずに繊細で透明な感じ。
話としては、特殊な能力を持つものたちが暮らす街咲良田を舞台に、3日だけ世界を殺せる、時を戻す能力「リセット」を持った少女美空と、「リセット」されても記憶を失わない完全な記憶の能力を持ち、美空にリセットの指示を出せるケイの二人が、猫探しから始まった事件に関わっていく感じ。リセットを繰り返すうちに、当初の目的からさらにその奥が見えていき、事件の全貌が少しづつ明らかになってくる展開は面白いです。「マクガフィン」のような意味の分からないワードの使い方も上手いと思いました。
そしてその物語に関わってくるのは、皆どこかが欠けたような、不思議なキャラクターたち。自分というものを薄らとしか持たずにケイにつき従う美空に、かつて自分の犯した過ちに囚われているケイ、そして他にもネタばれになってしまうので書きませんが、不思議というよりもちょっと壊れたようなキャラクターたちが登場します。
ただ、そんなキャラクターが登場し、バトル展開になったとしても、作品を包む雰囲気が変わらないというのがこの小説の特徴。酷いことも優しいことも自らの危険すらも、全て何でもないように扱うケイは確実に在るべき境界線を失っているような気がしますが、それでも、淡々として澄んだ雰囲気は最後まで崩れず。
歪みも異常性もどんな出来事も、全て一度濾過して不純物は許さないような、キャラクターもイベントもある意味上澄みだけをすくい取って、一つの世界を形作ったかのような、そんな独特の雰囲気を持った小説でした。
気がついたらふと気になっているような、どこか癖になる作品だと思うので、次の巻も期待して待っていたいと思います。