レインツリーの国 / 有川浩

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

ネットから始まる、等身大の恋の物語。
学生時代に衝撃を受けて、ずっと誰かと語りあってみたかったあるライトノベルのシリーズ。その感想をインターネットで見つけたところから始まる恋。
ひとみがサイトに書いていた小説の感想を伸が読んだことから始まって、メールでのやり取りを重ねてという感じで進む前半は、自分が一応ライトノベル系の感想サイト管理人をやっていることもあって、「そんなこと現実にはあり得ない!」と思いながらも、思わず憧れ、惹かれてしまうものがありました。初めて会うことになるシーンでも、そのきっかけとなったライトノベルのレーベルの棚の前を待ち合わせ場所にするなんてなんかもう良いなぁと、恋に恋するお年頃な感想を抱いてしまいそうな勢い。
でも、この作品はそんな綺麗なだけの恋物語ではなくて、むしろ二人が実際に出会ってからが本当の始まり。ひとみが二人で会うことを拒み続ける理由だった、彼女の抱えるある「理由」が明らかになってからの二人の姿は、決して聖人君子にはなれない生身の人間同士がそれでも分かり合おうとして、でもすれ違ってというぶつかり合いがあって、すごく等身大なと感じます。読んでいる人は恐らく、どちらかに肩入れして読むような形になるんじゃないかなと思ったり。
個人的には、伸の強引な距離の詰め方が、入ってはいけない間合いに断わりなくズケズケと入ってきて、しかもそれで気に喰わないことがあれば怒っているように感じてしまって、その無神経さにイライラしたり。
逆に、ひとみの方は最初から考え過ぎる性格の上に、抱えている「理由」からコンプレックスを抱えていて、それ故の後ろ向きさとか身勝手さとかに凄く共感を感じました。でも、身に覚えがあるように感じる考え方とか言動、行動を伸の視点から見せつけられることが思いのほかきつかったり。自分だけが辛いような顔をして、それを振りかざして逆に他人を傷つけるとか、なんというかもう「うわぁぁぁ」と言うしかないような……。
そんなところもありつつ、浮かれたり凹んだりするキャラクターと一緒に喜怒哀楽を感じて、そしてぶつかりながらも前を向いて進んで行こうとする二人に「頑張れ、大丈夫だよ」と言ってあげたくなるような物語でした。