神様のメモ帳 4巻 / 杉井光

神様のメモ帳〈4〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈4〉 (電撃文庫)

どこまでも優しくて、呆れるほど不器用な人たちの物語。
今回は平坂組創設の時、4代目と共に組を創り上げ、名前だけを残して消えた男、平坂が東京に戻って来るという話。4代目が手掛けるインディーズバンドのプロデュースを妨害し、卑劣な暴力すら振るう平坂と、自分の問題として周りに何も言わずにカタをつけようとする4代目。
それでもバンドの広報活動をやりながら、平坂と不意なことから出会っていた鳴海は、二人の間あるものは決してシンプルな憎しみではないことに気がついて。だからこそ、二人の間に、何か致命的な誤解があるのではと考えて。
暴力団絡みの抗争、不透明なお金、そして4代目と平坂と共に暮らしていたヒソンという女性の存在。知る程に不穏さを増していく過去を、関係はもう壊れてしまったものとして衝突する4代目と平坂を、何もできない無力な自分を前にして、それでも今回の鳴海は逃げませんでした。あがいてもがいて悩んで、それでも生きているならやり直せないものなどないと、4代目と平坂を結びつけようと奔走する鳴海の姿は、何事にも無気力だったころと比べると確かに脆く弱くなったのかもしれなくて、それでもずっと「生きている」ように思いました。そして、だからこそ、平坂組の一大事に組員たちの前で見せたあの姿は輝いて見えたのかなと。
そんな鳴海と4代目、そしてアリス、さらにはニート探偵団達の間にある確かな信頼と優しさもこの作品の魅力。ニート探偵団な皆様は依頼を受けた時にはもう下準備は済んでいるとかカッコよすぎます。そしていつの間にか強固なものになっていた4代目と鳴海の間の信頼関係。鳴海に託そうとしていたもの、そして「義弟」という言葉にはちょっとグッとくるものがありました。だからこそ、この人たちの不器用さもいやっていうほど感じられて、「ああもうバカ!」と思うこともたびたびなのですが。
全てが繋がった時に明らかになる残酷な現実も、それでも人の想いと繋がりで温かく塗り替えていけそうな気分になれる、静かだけど優しい物語。たまにはこんな優しさに浸るのも良いものだなと思います。
そして忘れてならないのがニート探偵アリスの魅力。もともと客観的な立場から物事を見る探偵のアリスなので自分自身のこととなるとさっぱりで、鳴海のことを意識するようになってからの女の子っぽい反応と、鳴海のことを心配していることが伝わってくる行動がやたらめったら可愛らしい感じ。
そんなアリスの探偵としての姿も面白かったです。小さな部屋で世界中の情報を把握して、でもそれは死者の言葉の代弁者でしかないということ。掘り起こした真実は、決して幸せを運ぶだけではなく、失われてしまった傷跡を再び蘇らせるものでもあって。
探偵は想いでは動かない。情報という圧倒的な力を持ちながら、彼女が感じている無力感はどこから来ているのか。その辺りの、アリスというキャラクターを巡る物語を、いつか読みたいなと思いました。もちろん、その時はこそは鳴海が探偵助手としてではなく、アリスのために何かをするべき時なのだという期待も込めて。