空の下屋根の中 1巻 / 双見酔

空の下屋根の中 (1) (まんがタイムKRコミックス)

空の下屋根の中 (1) (まんがタイムKRコミックス)

全ての気力が抜け出て行くような表紙と、「今日もやることがない。」という帯に思わず手に取った作品。
そしてページをめくればそこにはめくるめくニートワールドが広がっていました。このマンガの場合、カラーページに「働いたら負けだと思ってる!」系の積極的なニート男の話を挟みながら、本編は高校を出て、なんとなく働く気も起きず、なんとなく進学もせず、ただなんとなくニートになっていたかなえという女の子の話になっているのですが、明らかにリアリティがあるのは後者な感じ。前者がキャラクター的でギャグっぽいニート描写だとすれば、後者は「働きたくないなー」と思ったことのある人の心に突き刺さるようなあるある感。
働かなきゃいけないなぁとは感じていて、でもなんにもしたくなくて、ただ毎日は過ぎて行って、実家だから親はそれなりに面倒を見てくれて、今日も一日ひたすらだるい、みたいな。焦燥感は心の片隅に引っ掛かっていて、でも動き出す元気はなくて、息をするたびに気力が口から抜けて行くような無気力感があって、それでもなんとなく生きられちゃう現実もあって。
薄く澄んだ印象の絵が、この自分がどこまでも透明になっていくような無気力感に凄くマッチしていて、いつの間にか引き込まれていくというか、かなえの行動や思考に胸の奥にしまったはずの何かを呼び起こされるような、読んでいて「うわー」となる感じ。友達が家に来たけど片方はPC見てて、片方はマンガ読んでるとか、何その私……みたいな。
そんな調子のかなえの日常も、一日バイトをしたり、ハローワークに通ってみたりと少しづつでも確かに変わって行って、後半ではおもちゃ屋さんでバイトを始めてみたり。イメージと現実のギャップとか、職場の人間関係とか、そういうものもあったりしつつ、でも今日もとりあえずバイトは続いていますという感じになっています。
全体的に危機感の薄いというか、そんなに世界は優しくできていないよと思うような部分は多々あれど、あの無気力感からの社会復帰への道のりとしてファンタジーだとしても説得力がありすぎて、「もうこれ政府公認のニート対策本にしちゃえ!」とか思ったりなんだりしたのでした。なんだかんだで、これは大変素敵な作品だと思います。